自由の利かなかった左手と一緒に−−。倉敷市職員の佐川麻衣子さん(29)が11月、音楽の都・ウィーンで開かれる「第3回国際障害者ピアノフェスティバル」に出演する。交通事故後の脳梗塞(こうそく)が原因で、一時は左半身が動かなかった。リハビリを続け、ピアノを弾けるまでに回復した佐川さんは「いい演奏をしたい」と練習に励んでいる。【五十嵐朋子】
ベートーベンのソナタ第31番。高音をきれいに響かせて演奏する。左手は心持ち寝かせるようにしながら、丁寧に鍵盤を押す。ウィーンで演奏する曲だ。師事するピアノ指導者、重利和徳さんが、演奏時に左手で押す鍵盤の数や回数を減らす編曲をしてくれた。
国際障害者ピアノフェスティバルは、障害者にピアノ指導を続けてきた迫田時雄さんの提唱で2005年に始まり、これまで横浜、カナダで開かれた。身体障害や知的障害などがある人たちが各国から参加する。
佐川さんは大学生だった05年秋、車を運転中に後続車に追突された。大きなけがはなかったが、3カ月後に脳梗塞を発症。事故で首の血管が傷ついたことが原因だった。一命は取り留めたものの、まひが残った。
5歳から高校1年まで習っていたピアノを再開したのは、07年。左手に障害のあるピアニスト、篠原加代子さん(倉敷市)が主宰する「風の音コンサート」に行ったことがきっかけだった。最初は、左手を右手で持って鍵盤に置く状態。単音、和音と、粘り強く練習を重ねた。
発見もあった。「『もっと左手を弾いて』って、重利先生に何度も言われたんです」。左右のバランスが悪く、左手の音が弱かった。佐川さんは、まひのせいだけではないと考えた。「(障害が)恥ずかしくはないけど、心のどこかにそういう思いがあったのかな」
毎日、小さなハードルがある。職場で頼まれたことを「できない」と説明する時。両手で物を運ぼうとして、うまくいかない時。「卑屈になることはない。自分の中で、折り合いをつけていかないと」。ウィーンの舞台を思い描きながら、そう思っている。
◇風の音コンサートにも
県内外から障害のあるピアニストたちが集い、佐川さんも出演する「風の音コンサート」が19日午後6時から、倉敷市玉島阿賀崎の玉島市民交流センターで開かれる。当日1800円、前売り1500円。問い合わせは篠原さん(090・2095・4161)
毎日新聞 2013年10月16日 地方版
ベートーベンのソナタ第31番。高音をきれいに響かせて演奏する。左手は心持ち寝かせるようにしながら、丁寧に鍵盤を押す。ウィーンで演奏する曲だ。師事するピアノ指導者、重利和徳さんが、演奏時に左手で押す鍵盤の数や回数を減らす編曲をしてくれた。
国際障害者ピアノフェスティバルは、障害者にピアノ指導を続けてきた迫田時雄さんの提唱で2005年に始まり、これまで横浜、カナダで開かれた。身体障害や知的障害などがある人たちが各国から参加する。
佐川さんは大学生だった05年秋、車を運転中に後続車に追突された。大きなけがはなかったが、3カ月後に脳梗塞を発症。事故で首の血管が傷ついたことが原因だった。一命は取り留めたものの、まひが残った。
5歳から高校1年まで習っていたピアノを再開したのは、07年。左手に障害のあるピアニスト、篠原加代子さん(倉敷市)が主宰する「風の音コンサート」に行ったことがきっかけだった。最初は、左手を右手で持って鍵盤に置く状態。単音、和音と、粘り強く練習を重ねた。
発見もあった。「『もっと左手を弾いて』って、重利先生に何度も言われたんです」。左右のバランスが悪く、左手の音が弱かった。佐川さんは、まひのせいだけではないと考えた。「(障害が)恥ずかしくはないけど、心のどこかにそういう思いがあったのかな」
毎日、小さなハードルがある。職場で頼まれたことを「できない」と説明する時。両手で物を運ぼうとして、うまくいかない時。「卑屈になることはない。自分の中で、折り合いをつけていかないと」。ウィーンの舞台を思い描きながら、そう思っている。
◇風の音コンサートにも
県内外から障害のあるピアニストたちが集い、佐川さんも出演する「風の音コンサート」が19日午後6時から、倉敷市玉島阿賀崎の玉島市民交流センターで開かれる。当日1800円、前売り1500円。問い合わせは篠原さん(090・2095・4161)
毎日新聞 2013年10月16日 地方版