パラリンピック競泳で4大会連続で出場し、日本最多の15個の金メダルを獲得した成田真由美(45)=横浜サクラ=が3月、リオデジャネイロ大会出場選手に内定した。競泳では国内2位タイの年長記録となる46歳で挑む。2008年の北京パラリンピック以降、一線を退いていたが、昨年、7年ぶりに現役復帰。このほどスポーツ報知の取材に応じ、復帰を決めた理由について「20年の東京五輪・パラリンピック開催が決まったことが大きい」と語った。(江畑 康二郎)
両足は動かない。その分、腕を大きく伸ばし水をかき込む力強い泳ぎは健在だ。96年アトランタパラリンピックから4大会連続出場しメダル20個を獲得。その圧倒的な強さから「水の女王」と呼ばれた成田が昨年9月、「再び世界を目指す」と宣言し、競泳界に帰ってきた。
3月に行われた代表選考会で、女子7選手の中で1人だけ派遣標準記録を突破。08年北京大会以来、50メートル自由形(肢体不自由S5クラス)で5度目のパラリンピック出場が内定した。
「これまで多くの子供たちに夢を諦めるなとか、希望を持つことの大切さを偉そうに話してきましたが、ようやく実行できたかな」
46歳で迎えるリオの大舞台。競泳では国内2位タイの年長記録だ。
「年齢は考えなかった。諦めず泳ぎ続けて世界と戦えるところまで来られてうれしい。(出場内定メンバーで)最年長なので、若い選手がベストで泳げるような環境作りをしてあげたい。もう母心ですね(笑い)」
中学1年で脊髄炎を患い下半身まひとなり、車椅子生活に。運動神経はある方だというが、実は水泳が苦手だった。
「23歳の頃、仲間に誘われてプールに入った時は、とても怖かった。でも陸の上では重く感じる2本の足が、水中では軽くなり『自由だな』と思った。それが楽しくなって泳ぐのが好きになった」
組織委理事就任 今回、復帰の思いが膨らんだのは、「2020年の東京五輪・パラリンピック開催が決まってから」だという。大会招致委理事として携わり、14年にパラリンピアンとして初めて大会組織委理事に就任した。大会を盛り上げるためには日本人選手の活躍は不可欠。海外選手の競技レベルが上がる中、国内選手層の薄さに危機感を感じた。
「S5クラスで、日本選手権に出場する女子はわずか3人程度。私が復帰してリオに出場することで競技にも注目が集まり、一人でも多く『泳ぎたい』と思ってくれればいいなと思う」
容易な決断ではなかった。北京大会以降、人工股関節や右肘の手術を6度も繰り返した。再発の可能性も残る。だが、不安より使命感が勝った。
「一緒に北京大会に出場した選手が、難病が再発して泳げなくなった。そういう泳ぎたいのに泳げない友達がいる。私はこうやって泳げる環境があるだけ恵まれているんです」
パラリンピックとともに歩んだ20年。初出場した96年アトランタ大会後は、国内の認知度があまりに低く悲しい思いもした。
「大会から帰国して、ある新聞記者に『パラリンピックって何ですか』と質問されて驚いた。幸い私が金メダルを取れたので、パラリンピックという言葉が活字になればと思い、可能な限り取材を受けました」
パラリンピックへの理解が深まりつつある現在、東京大会に向けて、障害者に優しい街づくりを訴える。
「海外から訪れた障害者が「また東京に行こう」と思ってくれるような大会にしたい。建物、日本人の温かさ、いろいろなところを好きになってほしい。それにはいかに一人一人が『おもてなし』の意識を持てるかにかかっています」
60歳までは挑戦 4年後に50歳のレジェンドは、選手としてパラリンピックを目指すのか。
「今はリオで完全燃焼したい。東京は…まだ分かりません。でも、60歳まではチャレンジャーとして泳ぎますよ。障害を持っていても、いなくてもスポーツの楽しさを伝えたい。可能性があることを知ってほしいから」
日本障がい者スポーツ協会によると、パラリンピック競泳の最高齢出場は、1988年ソウル大会の平井玲朗さん(大阪市)の61歳。次いで、同大会の若月富士雄さん(愛知県)の46歳。成田がリオ大会に出場すれば国内2位タイの年長記録となる。
日本オリンピック委員会(JOC)によると、日本で開催した3つの五輪(64年東京、72年札幌冬季、98年長野冬季)の大会組織委役員に、パラリンピアンや元パラリンピアンはいない。20年東京五輪・パラリンピック大会組織委理事に就任した成田が初めて。JOC役員にも、これまでパラリンピアンはいないという。
◆成田 真由美(なりた・まゆみ)1970年8月27日、川崎市生まれ。45歳。83年、13歳で脊髄炎を発症し、両下肢まひに。96年アトランタパラリンピックから2008年北京パラリンピックまで4大会連続出場し、金メダル15個を含む計20個のメダルを獲得。96年、川崎市市民栄誉賞第1号。00年、総理大臣顕彰。川崎市市民文化大使を務める。横浜サクラスイミングスクール所属。
泳ぎ終えて笑顔を浮かべる成田真由美
2016年7月3日 スポーツ報知