「前半は丁寧に作りこんで、後半グダグダにして最終回でドーンと壊す」でおなじみの脚本家・遊川和彦にとって初めてのテレビ朝日系ドラマとなる『はじめまして、愛しています。』は第2話。視聴率は初回の10.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)から11.4%と、けっこう上がりました。初回の再放送やネット配信を見た人が2話目を“待って見た”ということですので、高評価なのでしょう。
特別養子縁組についての物語、前回は信ちゃん(江口洋介)と美奈ちゃん(尾野真千子)の梅田夫婦が、見知らぬ男の子を引き取る決意を固めるところまでが描かれました。
信ちゃんは、とことんポジティブな熱血漢。突然、家に現れた男の子を引き取る理由を「運命だ」「運命だ」「運命なんだ」と言い張り、強引に物事を進めてしまいました。美奈ちゃんは当然、戸惑いを見せるものの、信ちゃんへの絶対的な信頼感でもって、話に乗ることにしました。
ここまで、夫婦の人物像は“善き人”としか描かれていません。どうやら経済的にも安定しているし、地域にも溶け込んでいるし(主に信ちゃんの性格によるものですが)、ケンカもなさそうで、平和そのものの家庭です。いかにも「養子を取るのに向いている夫婦」という描かれ方でした。
第2話では、そんな夫婦に闇が差してきます。特別養子縁組を前提に、まず里親になるための研修を受ける必要がありました。児童相談所の堂本(余貴美子)による遠慮のない「面接」によって、夫婦が互いに「秘密にしてきたこと」「別に言う必要がないと思っていたこと」が次々に暴かれます。
「ご家族のことを教えていただけますか?」
信ちゃんは8歳のときに兄と父を交通事故で亡くし、それ以来、母はアルコールに溺れてしまったこと。美奈ちゃんは5歳のときに、母が入水自殺してしまったこと。そのとき、美奈ちゃんも「2人で海に入っちゃおっか」と誘われたことを告白します。それは互いに、10年の結婚生活の中で話していなかったことでした。
「どうして話してくれなかったのか」
2人の間で、ピキピキと緊張感が走ります。そこに堂本の冷静な言葉が降ってきます。
「なんなら(養子縁組を)やめても構いませんよ」
こうして面接をしていくうちに、互いの知らなかった面を知り、大ゲンカして別れた夫婦もあるそうです。
その後も堂本は、チクチクと夫婦の「話したくないこと」ばかりを聞いてきます。
夫婦はともに片親で、信ちゃんはアル中の母に、美奈ちゃんは父親の愛人に育てられました。そして2人とも大人になった今、その遺された親との関係がよくありません。一見、子どもがいないだけの“普通の家庭”に見えた梅田家でしたが、“普通の家庭”で育った人間は、この家にはいないのでした。
そうした人間が里親に向いているのかどうか、おそらく堂本には経験上、ひとつの推論が働いているように見えます。だからまるで、信ちゃんと美奈ちゃんの関係を破壊し、再構築しようとしているかのようです。知らない子と「本当の家族になる」ためには、まずは夫婦が「本当の家族」かどうかを試す必要があるということでしょう。養子を取るために必要な覚悟が、リアリティをもって描かれていきます。
児相によるテストが終わり、夫婦は都の児童福祉審議会で「里親認定」の審議を受けることになりました。その結果を待つ間、2人は「あの子に会いたい」と施設を訪ねます。施設の職員も堂本も「話しかけても無駄だ」「あの子は何も答えない」とあきらめムードですが、男の子は美奈ちゃんをしっかりと見つめ、立ち上がるのでした。男の子にとっても、2人が他の大人とは違う特別な存在であることが明らかになりました。
まるで家族のように手をつなぎ合って動物園に向かった3人でしたが、ここで男の子が迷子になってしまいました。園内放送をかけようにも、男の子には名前がありません。必死で探す中、また2人は、面接で互いに打ち明けた過去について言い争いになります。美奈ちゃんは「やっぱりやめよう、養子なんか。こんなんじゃ無理だよ、あの子を育てるなんて」「あの子がうちにきたのも、ただの思い込み」とまで言い出してしまいました。
そこに現れたのが、またピアノでした。広場にあったピアノを係員さんに頼み込んで弾かせてもらうと、男の子が引き寄せられてくるのでした。
また手をつないで、3人は施設に戻ります。来るときは信ちゃんから強引につないだ手でしたが、帰るときには、手を差し伸べようとする信ちゃんを、美奈ちゃんが制しました。
「そっちから、ちゃんと手をつなぎなさい」
「この人はあんたを裏切らない。そんな人の手は絶対離しちゃダメ」
美奈ちゃんの脳裏に、手を離してしまった母が海に入っていくシーンがよぎるのでした。
信ちゃんと美奈ちゃんは里親認定を受け、里親になる資格があると登録されました。今後は、里親委託という形で、男の子と同居することになります。
しかし、2人の間で明らかになったわだかまりは、何ひとつ解決されていません。互いに不満を飲み込んだまま、男の子を家に招き入れることになるのです。
特別養子縁組という制度は、子どものための福祉制度だそうです。つまり、親になる側が「ほしい」とか「愛してる」とか言っても、基本的にはその希望が叶えられるものではありません。その「ほしい」「愛してる」が、決してひとりよがりの感情や一時の欲望ではなく、子どもにとって最適な環境を作りえると裁判所に判断されたときにだけ、認められるのです。
だから、この2人にどんな過去や、どんな家族とのトラブルや、どんなトラウマがあったとしても、まったく関係ありません。信ちゃんが養子に固執する理由が、まだ明かされていないその過去にあったとしても、その過去を克服しようとどれだけ頑張っても、その行為が子どもにとって「ちょっとあんまりよろしくないね」ということになれば、認められないわけです。この子のために、自分の歴史と未来を犠牲にすることが強いられるわけです。自分の幸せより、この見知らぬ子どもの幸せを優先しなければならないということです。この先、ずっと。
筆者の知り合いにも、児童障害者福祉に身を投じた人間がいます。その人は、「施設の子のことを考えると、自分の子どもが運動会なんかで走り回っているのを見るのが忍びない」と言って、子どもの学校行事などに一切参加しませんでした。そして、その子が18歳になるのを待って、一家は離散しました。
福祉の世界は、「与える側」の頑丈な心も、容赦なく壊す世界です。普通の人も、普通じゃいられなくなる世界です。あんまり頑丈そうじゃない過去を持った夫婦がどのように壊れていくのか……いよいよ、今回はいつもより早く、遊川らしい残酷な世界が描かれそうで楽しみですね☆
2016年07月22日 ニフティニュース