障害者差別解消法が今年4月に施行され、半年近くがたつ。誰もが人格と個性を尊重し合う共生社会の実現に向け、障害を理由とする差別を解消するための措置を定めた法だ。障害者にとって障壁となっているものを取り払う努力が求められていることを、いま一度確認したい。
障害者とコミュニケーションを取る際、知識や理解が不足しているために、不快な思いをさせたり戸惑いを感じさせたりするケースは少なくない。そうした事態を防ぐため、同法は適切な対応の仕方を具体的に示す「対応要領」の策定を国や自治体に求めている。
これまでに本県で要領を策定した自治体は県のほか北秋田市、男鹿市、由利本荘市、八峰町、美郷町の5市町。ほかにも多くの市町村が策定作業を進めているが、全体として対応の遅れが目立つ。
同法施行の背景には、障害者への差別を禁じた国際条約が2006年に国連総会で採択されたことがある。日本は07年に条約に署名、14年に批准した。障害の有無にかかわらず平等に暮らせる社会を築くことは、世界の重要なテーマとなっている。
各自治体が定めた「対応要領」の多くは、差別的な例として▽本人を無視して付添人だけに話し掛ける▽一般住民を対象とした説明会やシンポジウムへの出席を拒む―などを列挙。一方、望ましい対応例として▽申し出があった際はゆっくり丁寧に繰り返し説明し、理解されたことを確認する▽目的地までの案内の際は障害者の歩行速度に合わせる―などを挙げている。
現実にはさまざまなケースがあり、要領だけでは判断できないこともあるだろう。だが、要領がなければ職員によって対応にばらつきが出ることが懸念される。まずは共有すべき考え方や行動の基本となる要領を策定して職員間で理解を深め、その上で、障害者が暮らしやすい社会の構築へ知恵を出し合うことが大切だ。
差別解消への取り組みで先進的な自治体として知られるのが神奈川県藤沢市だ。要領策定だけでなく、障害者団体の意見を踏まえて障害者のサポートの仕方を示す職員向けの冊子も発行。障害者差別解消法施行を伝えるポスターを電車やバスの車内に掲示するなどして市民への周知を図っている。
4月にいち早く要領を策定した北秋田市は職員への啓発に力を入れており、実情に照らして要領を適宜改善していきたいとしている。県外の先進事例も参考にしながら実践を重ね、県内自治体のモデルとなるよう期待したい。
身体障害や知的障害など、障害の態様によってサポート内容は大きく異なる。それぞれの障害者がどんな点に困難を感じているのか、それにどう対応すべきかを確認し合うことが重要だ。自治体のみならず、地域住民一人一人も意識を高めたい。
2016年9月17日 秋田魁新報