相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者らが殺傷された事件は、容疑者の障害者に対する差別的な供述内容とともに、多くの人たちに衝撃を与えた。一方で事件は重度の障害を持つ人たちを改めてクローズアップさせ、彼らを社会はどう受け止めているのかという根源的な問いを突きつけているようにも映る。県内の同種施設を訪れ、障害者福祉の最前線に立つ人たちの思いを聞いた。
訪れたのは、金沢市上中町の知的障害者施設「ふじのき寮」。社会福祉法人「松原愛育会」が運営し、20〜80代の男女81人が入所している。「一人一人を大切にする」を理念に掲げ、入所者の希望に応じた生活サイクルを心がけているという。部屋も一人一人に個室があてがわれている。
入所者は毎日、午前9時から午後5時までの間、何らかの活動に従事する。何をするかは一人一人の能力に応じて決まり、箱折りや割り箸の袋詰めといった単純作業に取り組む人もいれば、外で日光浴をしたり散歩したりする人もいる。
そもそも、なぜ彼らは施設で暮らしているのか。施設管理者の藤井宣雄さん(69)は「(世話で)両親が働きに行けなかったり、家族が亡くなってからのことを考えたりする中で、障害のある子供を入所させる場合がある」と話す。
週末は家族の元に戻る若い入所者がいる一方、1974年の設立時からずっと施設で暮らし続ける人もいる。家族とのつながりを失い、身元引受人がいない人もいるという。置かれた状況はそれぞれ異なる。
相模原の事件では容疑者の供述内容にも焦点が当たり、ネットには同調するような心ない書き込みも見受けられる。
藤井さんは「人の命の重さは障害の有無にかかわらず同じ。どうして容疑者のような発想が出てくるのか」と疑問を呈す。その反面、障害者への差別は社会に根強くあるとも感じている。「『可哀そう』と言う。でも心の中では『自分の子供に障害がなくて良かった』と思う感覚は誰にでもあるのではないか」
「きれい事」ではいかないことも
冨田和幸支援課長(51)に施設内を案内してもらった。ふじのき寮の職員は51人。81人の入所者と向き合う中で、厳しい状況に直面することもあるのだろう。「きれい事ではいかないこともある。それでも、私たちが(障害者を)特別視していはいけない」。冨田さんはそう話した。
事件を受け、ふじのき寮でも警備態勢を見直し、防犯センサーやフェンスの増設を決めた。ただ、地元の祭りに参加するなど、元々地域との交流を重視してきた歴史もある。ハード面ばかりを強化することが、必ずしも良いとは言えない。
藤井さんは自戒を込めるように「僕らがすることは『塀』を作ることではない。入所者の代弁者になり、いかに世間に彼らを理解してもらうかだ」と語った。
毎日新聞 2016年9月1日
障害の特性を理解し、障害のある人への手助けや配慮を実践する「あいサポート運動」に県が本年度から参加するに当たり、同運動発祥地・鳥取県と協定を結ぶ「あいサポート運動キックオフセレモニー」が8月31日、和歌山市のホテルアバローム紀の国で開かれ、障害者やボランティア団体、NPOの関係者ら約250人が参加した。
同運動は平成21年に鳥取県で始まり、ことし6月末時点で全国7県7市町に広がっている。
和歌山、鳥取両県が参加する関西広域連合の議会で同運動を知った仁坂吉伸知事が共感し、鳥取県に協定を申し入れた。さまざまな障害の特性などを解説したDVDや資料を配布し、一定の理解や取り組みが認められた個人や企業・団体をあいサポーター、あいサポート企業・団体に認定する。
セレモニーでは、仁坂知事と鳥取県の平井伸治知事が協定書にサインし、平井知事が鳥取県の取り組みを講話した。
仁坂知事は「障害がある方もない方も幸せに暮らせる社会をつくりたい。そのための工夫として障害があることを知らせる札『ヘルプマーク』を導入した。きょうはこの運動を最初に始められた平井知事に思いを語っていただきたい」とあいさつ。
平井知事は、自身の祖父が和歌山出身という縁や、江戸時代における紀州藩と鳥取藩の強いつながりを紹介。同運動に着手したきっかけとして、平成19年に日本が障害者権利条約に署名したことを挙げ、「これをきっかけとして社会運動にしなければと思った」と話した。
さらに、学生時代のボランティア経験や平成23年に選挙運動で骨折し、車いす生活を送った経験から「障害のあるなしに関係なく、同じ感情を持ち、懸命に生きている」ことを学んだという。教育現場への手話学習の導入などの先駆的な取り組みが紹介されると、会場から感嘆の声が上がった。
講話の最後に平井知事は、障害を抱えながら社会福祉活動に情熱を注いだ米国のヘレン・ケラーの言葉「私は光の中で一人で歩くより、暗闇の中を友達と歩く方が良い」を紹介し、「障害を知り、共に生きるを合言葉に運動を広げていきましょう」と呼び掛けた。
仁坂知事は終了後の取材に対し「各地の良い取り組みは積極的に取り入れ、具体的に行動していきたい」と話した。
佐々木一成(Plus-handicap編集長)
合同会社「ソルファコミュニティ」(沖縄県北中城村)は、就労継続支援A型事業として、精神障害のある利用者などが自然栽培で野菜を育て、販売している。特に甘みが凝縮されているというセロリは、東京のレストランに卸すほどの品質だという。
現在、利用者は19人で半数を精神障害者が占める。利用者らは午前10時から午後3時まで農作業を行う。草取りや水やり、収穫まですべての作業にかかわる。「太陽の光や風などの刺激を受けることで、利用者の症状は良くなるケースが少なくない」と玉城卓・同社代表は話す。
利用者の出社率は9割ほど。平均月収は月6万円で、給与減額の特例は申請していないという。
同社は4カ所で計3000坪の畑を借りており、オクラや空芯菜など40種類の野菜を農薬や肥料を使わない自然栽培で育てる。
直営店で販売するほか、全国10カ所に卸す。中でもセロリは味が濃く、香りが良いと評判で、ミシュランも評価する都内のイタリアンレストランでも採用しているという。
同社の野菜の売り上げは年600万円ほど。このほか自社で加工製品を製作したり、オーガニック製品を輸入したりしている。
玉城代表は福祉系大学を卒業後、高齢者や障害者の施設などで勤務。自然栽培をしていた人との出会いをきっかけに、3年前から地元の沖縄で同社を立ち上げた。「福祉の枠を広げ、食を通じた地域づくりを目指したい。さまざまな分野の人とも連携しコミュニティーを活性化させることができれば」と話している。
店内で笑顔をみせる玉城代表
2016年09月02日 福祉新聞編集部