病院や行政の対応・連携に不十分な点があったと指摘された。関係機関は、重く受け止めなければならない。

 相模原市の障害者施設で19人が殺された事件について、厚生労働省の有識者チームが検証の中間報告書を公表した。

 事件前に精神障害とされ強制入院させた容疑者に対して、さまざまな治療を検討すべきだった。退院後は医療的な支援が行われず、孤立させた―。こうした問題点や検討課題を挙げている。

 ただ、事件と精神障害の関連を示す証拠が、現時点で何もないことにも留意する必要があろう。動機もまだ解明されていない。

 最終報告に向けては、可能な限り警察とも情報交換し、さらに多角的な検証を進めてほしい。

 容疑者は事件の約5カ月前、犯行予告の手紙を衆院議長公邸に届けるなどしていた。

 報告書は、「自傷他害の恐れ」に基づく強制的な措置入院は妥当だったとしつつ、病院側の「不備」も指摘する。

 中でも気になるのは、容疑者の薬物使用への対応だ。詳しい医師がいないのに、外部の意見を聴くこともなく、薬物依存の治療は行われなかった。

 病院側は結局、「大麻精神病」などと診断した。だが、一般的に大麻の使用だけで、「障害者を抹殺する」という思考が生じることは考えにくいともいう。

 報告書は、他の精神障害の可能性も考え、生活調査や心理検査を尽くす必要があったとの見解を示す。大きな論点であり、さらなる検証が求められよう。

 退院後の容疑者の居住先についても、親と病院側に認識の食い違いがあった。実態とは異なって書類上、「市外に居住」という扱いとなり、相模原市の医療的な支援の対象から外れた。

 市役所内の連絡体制も不十分だったという。容疑者は市に生活保護の申請をしており、市内に居住していることが認められたが、医療担当部局は把握していなかった。縦割りの弊害ではないか。

 報告書は、他の病院や自治体でもあり得る問題だとして、法制度を含む見直しを提言している。

 診断や治療を親身に行い、退院後の医療支援や相談を丁寧に続けるのは大切なことだ。

 しかし、忘れてならないのは、患者の人権やプライバシーを守る視点である。治療や「支援」が「監視」につながるような制度にしてはならない。

09/20   北海道新聞