誰もが地域で自立した生活ができる「共生社会」実現の旗振り役となるべき中央省庁や滋賀県を含む地方自治体による障害者雇用の水増し問題が発覚した。厚生労働省のガイドラインに反した雇用数の算定について、滋賀県内の障害者支援団体や企業では批判や困惑が広がる。その一方で、数値目標ありきの制度についても疑問の声が上がっている。
■支援者「水増しは言語道断」
「意図の有無にかかわらず、水増しは言語道断。仕事を障害者に任せるのは難しいという考えが根強い証拠だ」。NPO法人県社会就労事業振興センター(草津市)の城貴志センター長は批判する。
同センターでは、民間企業向けに障害者雇用に関する相談業務を行う。人材不足などで相談件数は近年増えていると言い、「県内企業の採用意欲は高く、障害者の活躍の場が広がりつつある」と説明する。
民間企業は毎年6月1日時点の障害者雇用数の報告が求められる。雇用率が達成できなければ、1人につき月5万円を納める必要がある。「企業間での情報交換を通じて、採用方法や実習内容に関してノウハウが蓄積されているが、罰則がない行政は障害者が働きやすい環境作りへの意識が低くなるのでは」と語る。
一方で、「数値達成のための性急な採用は早期退職につながりかねない」と城さんは懸念する。コツコツと単純作業が得意だったり、記憶力が優れているなど、障害者一人一人で得意分野は異なるとし、「それぞれの強みや弱みを配慮した職場づくりをせず、目先の数字を追いかけて障害者を採用すれば、トラブルにつながる。職場で抱え込まず、支援機関と連携して、環境づくりを考えることが必要」と指摘する。
■雇用の社長「職場で活躍、障害関係ない」
滋賀県甲賀市水口町伴中山の溶接加工会社「ティグ水口」では、5年前から障害者を雇用、現在2人が勤務する。同社の中前直也社長は「手本となる行政が水増ししたのは残念。障害者を戦力として考えず、数値達成が先行したのだろう」と推測する。
発達障害がある20代男性は4年前から溶接加工を担い、集中力と手先の器用さは年々磨きがかかっているという。中前社長は「長く続けられるかと不安に思うのはどの社員に対しても同じ。職場で活躍する人材には障害の有無は関係ない」と話した。
4年前から溶接加工を担う20代男性。発達障害があるが技術や集中力は高まっていると経営者は話す
2018年09月10日 京都新聞