◇豪雨被災の坂
聴覚に障害のある大阪府高槻市、公務員黒川大樹さん(29)が、西日本豪雨の被災地を一人で訪れ、復興ボランティアに参加した。障害者によるボランティアは全国的にも珍しく、黒川さんは「聴覚障害」と書かれた特製ビブス(ベスト)を着用して、健常者とともに汗を流した。「耳が聞こえない自分が活動する姿を見て、一人でも多くの障害者が参加してくれれば」と願いを込めている。(伏山隼平)
◇大阪の男性 特製ビブス着け作業に汗
「後ろから声をかけられても聞こえません。ゴメンね! 皆頑張ろう!」。先月30日、土砂が流入した坂町の住宅地。背中にメッセージ入りのビブスを着た黒川さんが、マスク姿で家屋に流れ込んだ土砂をかき出していた。
大阪府生まれ。4歳の時に難聴と診断され、20歳で自分の声も聞こえなくなった。見た目は健常者と変わらないため、普段の生活では、周囲の人に障害を気付いてもらえないことが多いという。
特製ビブスを作ったのは2015年。趣味のマラソン大会に出場したときだった。後ろを走っていたランナーとぶつかり転倒。レース終了後、「周囲に障害を伝えれば、接触はなかったのでは」と考え、試行錯誤の末、ビブスに「聴覚障害」と書き込んで目立たせることを思いついた。
高槻市役所に勤務。6月の大阪北部地震では、同市役所の罹災(りさい)証明を担当し、落ち込む被災者を目の当たりにした。「災害ボランティアをしたい」と思いを募らせるようになった。
西日本豪雨から1か月たった8月上旬。「人手が必要なはず。協力したい」。自分から障害を伝えることで、コミュニケーションをとるのに役立てようと、ビブスをバッグに詰め、岡山県倉敷市真備町と、坂町をそれぞれ訪問した。
ビブスの効果もあって、現地では、ボランティアや住民から、手順や作業場所を身ぶり手ぶりで教えてもらい、円滑に作業を進めることができた。
今後も被災地に赴く予定だ。黒川さんは「耳が聞こえなくても人を助けたい気持ちに差はない。障害者でもできるんだということを、健常者にも障害者にも知ってもらいたい」と話した。
◇自立や雇用創出に期待
障害者が復興ボランティアに参加する動きは、西日本豪雨以降、県内で広がりつつある。関係者からは、「社会的自立や雇用創出につながる可能性がある」と期待の声が上がっている。
西日本豪雨では、県ろうあ連盟(広島市南区)が、聴覚障害者対象のボランティアセンターを設置。約100人の障害者が登録し、清掃や土のうづくりなどに参加した。同連盟の横村恭子さん(60)は「被災者に喜んでもらい、障害者自身も『できるんだ』と自信を持つようになった」と効果を強調する。
ただ課題も残る。障害者差別をなくす活動をする日本アビリティーズ協会(東京)の伊東弘泰会長(76)は「障害者は支援を受ける側で支えるのは無理だ、という偏見がいまだある」と指摘。「障害者が参加できる環境を社会全体でつくり、障害者自身も参加する意思を示さなければならない」と話した。

「聴覚障害」と記したビブスを着用し、ボランティアに参加する黒川さん(坂町で)
2018年09月11日 Copyright © The Yomiuri Shimbun