2020年に東京五輪・パラリンピックが開催されることから、障害者による文化芸術活動を後押しする機運が高まっている。今年6月には「障害者文化芸術活動推進法」が成立し、国が創作活動や作品の販売を支援していくことになった。ただ一方で、「障害者と健常者のアートを区別する考え方だ」と懸念する声も上がっている。
8月中旬、東京・上野の東京都美術館で「TURNフェス4」があった。障害や国籍、世代を超えた共生について考える展覧会で、2016年に始まり今回で4回目。五輪大会組織委員会が認証する「東京2020公認文化オリンピアード」事業にもなっている。
3日間で、前回より約千人多い3483人が来場。福祉施設や精神科病院などで制作された絵画や造形作品が展示され、ワークショップも開かれた。展覧会のコーディネーターで、障害者支援施設「みずのき」(京都府亀岡市)の奥山理子さんは「五輪がなければこの勢いを経験できなかった。期待と使命を感じる一方で、一過性のブームで終わらせてはいけないと思っている」と話す。
近年、美術の専門教育を受けていない人による芸術を意味する「アール・ブリュット」や「アウトサイダーアート」の価値に注目が集まり、国際的な評価を受ける作品も出てきている。障害者文化芸術活動推進法では、障害者が創作活動や発表をする機会を増やすこと▽価値の高い作品を発掘すること▽販売を支援することなどを基本施策として定めている。具体策は26日から有識者会議で議論する予定だ。
厚生労働省は支援事業の来年度予算として、3億円余りを概算要求に盛り込んだ。新法成立の追い風もあり、今年度より約9千万円多い。
福祉系28団体でつくる「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた障害者の文化芸術活動を推進する全国ネットワーク」の久保厚子会長は「作品の発表の場がない、そのためのお金もないというのが支援団体の悩みだった。地域差もあったが、法律に基づく予算で環境が整うのでは。すばらしい力がある人たちを発掘し、知ってもらう機会になって欲しい」と話す。
■「分ける」ことへの懸念も
一方で、疑問の声も上がる。社会福祉法人が運営する「アトリエインカーブ」(大阪市平野区)の今中博之理事長は「こうした法律の枠組みは、障害者とそうではない人を分けてしまうことになるのでは」と懸念する。
アトリエでは、知的障害のあるアーティストたちの創作環境を整え、作家としての自立を支援。自前の画廊でアーティストたちの作品を展示し、作品を積極的に販売するなど、健常者と分け隔てのないアート市場で挑戦を続けてきた。今中理事長は「補助金などで基礎を固める支援は必要だが、あとは民間で支えていくべきだ」と話す。
障害者アートに詳しい、東京国立近代美術館の保坂健二朗・主任研究員は「東京五輪に向けて機運が高まるタイミングで、研究や展示する側としても活動の支えになればよいと思う。『障害者』という冠が芸術につくことで誤解を生まないかは懸念するところ」と話している。
TURNフェス4で開かれたワークショップ=8月、東京・上野の東京都美術館、アーツカウンシル東京提供
2018年9月4日 朝日新聞