宮城県蔵王町の障害者就労支援施設で作られる手作り豆腐が人気を呼んでいる。県産大豆ミヤギシロメ100%と天然にがりを使った豆腐のおいしさが知られるだけでなく、各地の障害者施設での豆腐づくりも後押ししている。
施設は社会福祉法人「はらから福祉会」(本部・同県柴田町)が1997年に開いた「蔵王すずしろ」。知的障害者ら約50人と職員が働く。水が豊富な蔵王連峰のふもとにあり、500~1千個の豆腐や湯葉、豆乳を毎日出荷。濃厚で大豆の甘みが強く、食感はふわふわで柔らかい。
高い賃金で障害者が自らの給料で生活を送れるようにしたい――。武田元(はじめ)・理事長(75)らが考え、たどりついたのが豆腐だった。景気に左右されず、収益性が高くて付加価値も付けやすい。前身となる共同作業所時代の93年に発売した。
大豆を入れるおけを洗い続ける。固まった豆腐を包丁で切る。豆乳を段ボールに詰める――。障害の程度に関わりなく、安定して質の高い作業ができるよう作業工程を細かく分けた。細分化で、一人ひとりの力量や経験に合わせて作業の内容や量を割り振り、無理なく仕事をやり遂げられるようになった。スキルが上がると、仕事を見直してきた。
一般業者と競うため、味にこだわった。すずしろ前所長の小石沢邦彦さん(52)が中心となり、発売後も季節や気温に応じて豆乳の温度やにがりの量を変えた。にがりはミヤギシロメに合うものを全国から探し、五島列島産になった。
昨年、初出品した全国豆腐品評会東北地区大会の充塡(じゅうてん)豆腐部門で金賞、木綿豆腐部門で銀賞。今年6月の東北地区大会では両部門で金賞に輝いた。今年はテレビ番組でも「絶品豆腐」と紹介され、売り上げは1・5倍に。番組で取り上げた「豆腐マイスター」の工藤詩織さんは「ふんわりとした弾力のある柔らかさ。これに出合って感動したことが、私が豆腐の世界に入ったきっかけなんです」と話す。
キャリア約20年の男性(40)は、固まった豆腐を水槽に入れる作業を担当。「豆腐がおいしいと言われるとうれしい。ずっと働いていきたい」と話す。
はらからの挑戦は障害者支援、作業所運営のモデルとして注目され、視察も相次ぐ。各地の障害者施設に豆腐づくりを指導し、現在、約15カ所の施設に、はらからで作った豆乳を卸し、豆腐づくりを後押ししている。
千葉県松戸市の就労支援施設「とうふ工房豆のちから」もその一つ。運営する社会福祉法人まつかぜの会の柳町美恵子理事長は「評判も良く、リピーターも多い」と言う。
はらからの商品は宮城県内のスーパーや関連施設、通販のほか、不定期に東京・池袋の宮城県アンテナショップで販売している。給料を上げるため、販路を広げたいというが、消費期限が短く輸送費もかかる。武田理事長は「味には自信がある。知恵を絞りたい」と話す。
工程を分担し、地元の大豆と天然にがりで豆腐を作る
2018年9月12日 朝日新聞