横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心臓血管外科領域で最もお金を持っているのは・・・ これによって治療方針も影響されている!

2020-12-06 12:01:10 | 心臓病の治療
 心臓血管外科領域で最もお金を持っていて影響力があるのは、何といっても人工弁を扱っている会社です。人工弁は特に最近は生体弁の使用が9割という現状で、人工弁が一つ100万円近くしますし、高齢化によってますます使用数が増加しています。最近は経カテーテル治療による大動脈弁設置術(TAVI=Transcatheter Aortic Valve Inmplantation)もあり、こちらのデバイス料金が480万円あまりと非常に高額です。どうしてもこうした商品を扱う弁会社にはお金が集まるので、医療関係へのスポンサーになっているという現実があり、これによって、医療者側の治療方針も影響されているというのが本音です(だれも口には出しませんが)。
 現在、世界の潮流としてかつての機械弁全盛時代から、生体弁全盛時代へと大きく変化したのは日本においても2008年ころに生体弁の使用数が機械弁の使用数を逆転して凌駕してからとしていいと思います。このころ、生体弁の会社の一大キャンペーンが毎年繰り広げられ、生体弁への移行に拍車がかかりました。その後、この10年、いつのまにか生体弁の使用率は9割を超え、より、若い人にも生体弁が使用されるようになり、同時にTAVIもより広範囲の人に適応される方向に今後向かうものと想像されます。

 医療費の抑制には、国が主導してコントロールする必要があり、医療者への人件費が少なく、高額のデバイス料金へお金が流れる現在の仕組みから、より安いデバイスを使うと医療者や医療施設へ多くお金が流れるシステムに変えていく必要があります。
 たとえば、現在矛盾があるのは人工弁置換よりも、より技術的に難易度が高い自己弁を温存する弁形成術の手技料が安くなっていることです。たとえば、人工弁置換するよりも自己弁を温存した方が手技料が50万円高く設定されれば、より自己弁を温存する症例が確実に増えます。たとえ手技料を50万円高くして、その手術に人工弁輪を使用しても、結果的に10万円以上、人工弁置換よりも総医療費は安く上がります。こうした国の施策が望ましいと考えます。
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坐骨動脈瘤は膝窩動脈瘤と同じく手術対象です!

2020-12-06 11:51:59 | その他
 坐骨動脈は坐骨神経に沿って走行する胎生期からの遺残動脈で、多くの人には生まれたときには退縮して、下肢の血流は外腸骨動脈から続く大腿動脈系に支配されていますが、坐骨動脈が遺残している場合は、この内腸骨動脈系の動脈が下肢血流を栄養し、大腿動脈は発達していません。
 この坐骨動脈には動脈瘤が出来ることがあり、この場合、瘤内に出来た血栓が下肢に塞栓症を起こしてしまい、一度塞栓を起こしてからは血行再建が難しく下肢切断になってしまう症例が多い為、予防的に手術をする必要があります。これは膝窩動脈瘤と同様で、見つけ次第、特に瘤内に血栓を伴っている場合は早期の手術が必要です。
 残念ながら最近は下肢の血流障害の診療は循環器内科医が行っていることが多い為、この啓蒙が不十分で、遺残坐骨動脈瘤と診断されてもそのまま放置され、症状が出たときには手遅れという症例が実際にあります。

 膝窩動脈瘤、坐骨動脈瘤、大腿動脈瘤、見つけ次第、血管外科医に相談してほしいです。
 手術は瘤の切除、空置などの処置をしたあとに、末梢側にバイパスを作成します。
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OZAKI手術=自己心膜による大動脈弁再建術をMICSで(MICS-OZAKI手術)

2020-12-06 11:26:42 | 心臓病の治療
 自己心膜によって大動脈弁尖を再建することで、人工弁置換しなくてすむ手術は、東邦大学大橋病院 心臓血管外科教授の尾崎重之先生によって考案された手術です。既に尾崎先生によって1300例以上の執刀が行われていて、その成績、長期予後も良好と言われています。自己心膜をグルタールアルデヒド処理し、尾崎先生の考案したサイザー器具によって型どおりに弁尖を作り、型にあわせて大動脈弁輪にマーキングしたとおりに縫着して再建します。弁尖がより長持ちするように改良がくわえられてきましたが、人工弁のように心膜弁尖が裂開したりすることはほとんどなく、若干感染性心内膜炎の発生によって再手術が必要になった症例があるのみで、人工弁置換よりも成績が良好だそうです。
 人工弁の場合は固いステントポストに心膜弁を張り付けたりして、固い可動性がない組織に膜を張り付けるために、膜が動くたびに膜に負担がかかることが劣化の原因となるのに比較して、自分の弁輪に縫着することで、この圧を微妙に逃がして膜組織に負担がかからないことが長期にわたって膜が耐えられる理由ではないか、と尾崎先生が考察しています。

 今までも胸骨部分切開などにより小開胸アプローチでのOZAKI手術も試みられてきましたが、10月に尾崎教授が横須賀市立うわまち病院にStonehenge TechniqueによるMICS-AVR(小開胸アプローチによる大動脈弁置換術)を見学に来られ、その後、筆者が東邦大学大橋病院に伺って、MICSアプローチによるOZAKI手術のお手伝いをさせていただきました。手術は腋窩動脈送血での人工心肺セットアップになりましたが、無事に4時間ほどで1例目のMICS-OZAKI手術が完遂されました。その後も1例、同様の手術が行われ、今後、MICS-OZAKI手術が標準術式として行われていくことになるそうです。

 人工弁を使用しない大動脈弁再建術は、現在と特に小児心臓血管外科領域で注目されており、人工弁の適応するサイズがない小児において今後広まっていくものと思われます。現に尾崎教授が海外でも主に小児病院で同手術を執刀、指導に行かれているそうです。
コメント (8)
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