横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

静脈留置カテーテルの動脈への誤挿入

2020-12-17 09:36:40 | その他
 静脈に中心静脈カテーテルを留置しようとして、誤って動脈に留置してしまうという事例は時々見られます。単に抜去して圧迫して止血ができる場合も少なからずありますが、圧迫出来ない場所で不用意に抜去すると大量出血したり仮性動脈瘤を形成したりする危険もあります。場所によっては心臓血管外科医が手術室で抜去、血管修復する必要があります。
 誤挿入を予防するために最近はガイドワイヤーを使用したカテーテル挿入手技が一般的になっていますが、確実な方法としてそのガイドワイヤーが静脈内にあることをエコーで確認するという作業をすることが推奨されています。エコーをしているにも関わらず、動脈への誤挿入が実際に起きている現実として、エコーでの確認が不十分ではないか、という意見もあります。エコーで静脈をガイドワイヤーが貫いているのはわかっても、その先で後壁を貫いていないか、静脈内を確実に連続的に走行していることを確認することが必須ですが、そこを注意深く見ていないのが原因でないか、とも思われます。
 やはりかならずこうしたリスクがある、という危険予知訓練を繰り返すことが最良の予防になると思われます。

 その意味で、毎回の心臓手術でも、この場面ではこうした合併症が起こる可能性がある、と口を酸っぱくして術中に指導するのもこのためです。
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心臓血管外科Zoomカンファランス

2020-12-17 09:25:33 | その他
 心臓血管外科カンファランスを横須賀市立うわまち病院内で毎週木曜日の8時から行っておりますが、昨今の新型コロナウィルスパンデミックを考慮して、12月に入ってからはZoomでのカンファレンスとしています。内容は手術報告、術前症例検討、その他の連絡に関してです。
 Zoomでは、同じ院内にいながら同一箇所に大人数が集まることが避けられるので三密を回避できるという観点から、万が一スタッフにCOVID-19感染者が発生した場合にカンファレンスに参加していたから濃厚接触者と認定され診療をストップさせられるリスクを回避できます。とはいっても、その他の診療中にお互い接触しているため、どこまでこの診療ストップの抑止に貢献出来るかは微妙ですが、少なくともこうした取り組みをしている、という利点はあります。
 その他にも、リモートで参加出来るので、自宅から参加したり、また、院外の関係者にも参加頂くことが可能になります。本日は現在アメリカに留学中で、以前うわまち病院で働いていた医師にも参加してもらいました。外からの参加もあると、スタッフの張り合いにもなるとおもいます。
 Zoomカンファレンスを実施するにあたって、ただ顔を合わせて会話するだけでなく、コンテンツが最も重要です。画面を共有するメリットを生かすためにも極力画像、動画を呈示することで内容が濃いものになりますが、そのためには準備が必要です。先週、今週のカンファレンスのために、それぞれ約30分ほどの準備がかかりましたが、資料の整理や知識の整理などのためにもいい機会になっています。
 本日は、4例の手術報告に動画を3本入れて呈示し、術前検討症例3例を呈示しました。
 また、MICS-AVRの概要についても、講演で使用した動画やスライドを使って短時間で説明し、またMitraclipの適応症例と、その対処についても提言しました。
 次週は今年最後のカンファレンスになるので一年間のまとめ的なスライドを作ろうと思いますが、それが年報の作成、自治医科大学附属さいたま医療センター心臓血管外科医局のMMカンファレンスに呈示する資料に直結するので、こうした仕事をすることは有用と考えています。
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高齢者に多い慢性下肢浮腫対策−少しの気付きと対策でむくみ予防を

2020-12-17 08:35:41 | 心臓病の治療
https://medicalnote.jp/contents/180904-006-BX

むくみ(浮腫)を主症状に心臓血管外科に紹介されてくる患者さんは少なくありません。
たしかに浮腫の専門家というものがかならずしもいないことが理由とは思います。

むくみの原因となる心臓や腎臓などの基礎疾患がないかどうか、静脈血栓などないかどうか、と検査して対応を検討しますが、それ以外の場合も少なくないのが現実です。


増加する高齢者の慢性下肢浮腫

むくみに気づいて慌てる前に、慢性下肢浮腫について知ってほしい

日本は超高齢化社会に突入し、全人口のうち27.3%1)を65歳以上の高齢者が占めています。そして高齢者の増加に伴って増えているものが、高齢者の慢性下肢浮腫です。慢性下肢浮腫とは、病気によるものではなく、高齢者特有の生活習慣(長時間同じ姿勢をとり続けるなど)によって生じる足のむくみです。

足のむくみが生じる病気には、心不全や腎不全、深部静脈血栓症*などがあり、いずれも命にかかわる病気です。そのため、足のむくみで病院を受診した場合には、これらの病気がないかどうかを調べるために、複数の診療科で全身の検査を行います。

しかし、生活習慣による慢性下肢浮腫の場合、検査を行っても異常はありません。もし、慢性下肢浮腫を知っていて未然に防ぐことができれば、「何か重大な病気ではないか」と不安に感じて慌てる必要はありませんし、不必要な検査を受けることによる負担もかかりません。

残念ながら、日々の暮らしの中で防ぐことができるはずの足のむくみによって、病院を受診する患者さんが増えているのです。

高齢者の慢性下肢浮腫を予防するためには、普段身近にいるご家族やヘルパー、介護福祉士などが慢性下肢浮腫に関する知識を持ち、原因となっている生活習慣を改善に導いていただくことが大切です。

* 心不全…心臓のポンプ機能が低下することで、全身の血液循環がうまくいかなくなる状態

* 腎不全…血液から老廃物や余分な水分をろ過する腎臓の機能が低下する状態

* 深部静脈血栓症…下肢の深部静脈に血栓ができる病気。静脈の血栓が肺動脈に流れて詰まると肺塞栓症を引き起こし、呼吸困難を引き起こしたり、突然死に至ることがある。

慢性下肢浮腫が起こる原因

慢性下肢浮腫を引き起こす生活習慣

高齢者の慢性下肢浮腫は、長時間同じ姿勢で座りっぱなし・立ちっぱなしでいることや、歩いていたとしても十分な歩行ができていないことが原因で起こります。

長時間座り続けている

高齢になると、どうしても椅子や車椅子に座って1日を過ごすことが多くなります。下肢の血流は、ふくらはぎの筋肉が収縮する力によって足首から心臓へと流れるため、足を動かさずにじっとしている状態が続くと、下肢の血流が滞ります。

すると、余分な血液が下肢にたまり、血液中の余分な水分が血管外へ漏れ出すことで、むくみの症状が現れます。

長時間立ち続けている

長い時間足を動かさずに立ちっぱなしでいることもむくみを引き起こし、特に1人暮らしの高齢女性に多くみられます。

高齢者は一つひとつの作業に時間を要してしまうことが多く、料理や洗濯、掃除などの家事全般を終わらせるのに1日かかってしまうこともあります。すると、無意識のうちに立ちっぱなしでいる時間が増えてしまうため、下肢の血流が滞り、むくみを引き起こします。

歩行が十分にできていない

筋力が低下していたり、膝や足首の関節が悪かったり、パーキンソン病*を持っていたりすると、小刻み歩行やすり足歩行になっていたりすることがあります。

このような歩き方では、ふくらはぎの筋肉をしっかりと動かすことができていません。たとえ歩いていたとしても、筋肉によって下肢の血液を押し流すことができておらず、むくみを引き起こす要因となります。

* パーキンソン病…円滑な運動を行うための役割を担う脳の一部に異常が生じる病気

慢性下肢浮腫はひどくなるまで気付かれないことが多い

慢性下肢浮腫の問題点は、むくみが進行して足がパンパンに腫れ上がったり、強い痛みが生じたりするまで、周囲が気づきにくいことにあります。

足のむくみは日々の生活で少しずつ悪化していきますが、痛みがでるまで症状を訴える方は少なく、周囲の方も高齢者の足をみる機会が少ないために、重症化して初めて病院を受診される方が多くいらっしゃいます。

軽度の段階でむくみの症状に気づき、適切な予防を行うことができれば、むくみの進行を食い止めることが可能です。

次章で具体的な予防法についてご紹介します。

慢性下肢浮腫の予防法

慢性下肢浮腫を予防するためには、主に以下のようなことを実践してください。
・日中にむくみ予防の着圧ソックスを履く
・椅子に座るときには、足とお尻を同じ高さにする

予防法① 日中にむくみ予防の着圧ソックスを履く

足のむくみは、夜寝ているときよりも、日中起きているときに悪化していきます。高齢者の慢性下肢浮腫は、むくみが起きることを未然に防ぐ必要があります。そのため、日中起きているときにむくみ予防の着圧ソックスを履いてください。

着圧ソックスは、ドラッグストアなどで購入できる市販のもので構いません。就寝時にむくみを改善する目的のものであっても、高齢者の場合には日中に使用していただきたいと思います。

また、高齢の方は自力での着用が難しい場合がありますので、その場合には周囲の方々が手伝って履かせてあげるようにしてください。

予防法② 椅子に座るときには、足とお尻を同じ高さにする

下肢静脈瘤 1

下肢静脈瘤 2

椅子に座っているときには、足を下ろしたままではなく、お尻と同じくらいの高さに上げておくようにしましょう。

このとき、高さ20㎝ほどの台に足を乗せているだけではむくみを防ぐ効果は期待できません。上図(上)のように、足と同じくらいの高さの椅子などを用意するなどして、日頃から足をあげる工夫をすることが大切です。

しかし、椅子に座るたびにわざわざ足を上げる動作が面倒になったり、腰が痛くなったりして、足をあげることが続かない方も多くいらっしゃいます。

そのため、毎日座る椅子を、上図(下)のようなリクライニングチェアにするなどして、自然と足を上げることができるような生活環境を整えることが理想です。

病気によるむくみの特徴は?

冒頭でもお話ししたように、足のむくみは心不全や腎不全、深部静脈血栓症など重大な病気でも起こることがあり、それぞれ症状の現れ方にはいくつかの特徴があります。

たとえば、心不全や腎不全であれば、足以外にも顔や手など全身にむくみがみられることが多く、息切れや呼吸困難などの症状が現れたりすることもあります。

また、深部静脈血栓症では静脈に血栓が生じるタイミングで足がむくむため、「あのときからいきなりむくんできた」というように、症状発現の時期が明確であることが多いです。

ですから、足のむくみと同時にこれらの症状がある場合には、ためらわずに病院を受診するようにしましょう。

むくみが重症化する前に、日々の対策を

高齢者の慢性下肢浮腫を「ただ足がむくんでいるだけで、病気ではないから大丈夫」と軽視してはいけません。むくみが重症化すると、足が重くなったり、痛くなったりして自力で歩くことが困難になり、皮膚潰瘍(皮膚がえぐれて水が出てくる状態)になったりすることもあります。

最期まで自分の足で歩くことができることは、とても大切なことです。そして、それには家族や周囲の方々のサポートが欠かせません。

ですから、身近の高齢者が「座りっぱなしになっていないか」「家事を頑張りすぎてはいないか」と日頃から気にかけるようにして、慢性下肢浮腫を未然に防ぐようにしましょう。
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