腕頭動脈損傷はまれな外傷です。というのも、腕頭動脈は胸壁に守られているので、損傷する可能性が低い場所と考えられているからですが、刺創などではまれにあり得ます。
ガラスでけがをした人が、実は小さい皮膚の刺創が腕頭動脈まで達していてショックになっている症例や、カテーテル挿入時に誤って腕頭動脈を穿刺してカニュレーションしてしまうといった事例を経験したことがあります。
この場合は骨を外さないと腕頭動脈には到達できないので、右頸部から第二肋間に向かうコの字の皮膚切開で、逆L字型の胸骨部分切開を行うトラップドアアプローチが最もMinimally Invasiveな方法です。この部分だけの為にFull Sternotomyを行う必要はありませんが、他に副損傷がある可能性が否定できない場合は、Full Sternotomyで縦隔内を観察するほうが良い場合もあります。
正確にはオリジナルのトラップドア法は、第4肋間に向かい、肋間筋とそれに沿った皮膚も切開していく方法になるので、第2肋間に向かう方法はその修正法といえるかもしれません。
またもう少し低侵襲な方法としてTransmanubrial Approachがあり、これは胸骨柄から第一肋間に向かい切開で、第一肋軟骨を外すことで視野が改善し、より低侵襲ですが、若干視野の制限がある可能性があります。Transmanubrial Approachのほうが有名で、こちらを第一選択にしている施設も少なくないと思いますが、胸骨部分切開の大動脈弁置換で慣れている当施設ではトラップドアのほうが馴染みやすいと感じます。