横須賀うわまち病院心臓血管外科

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超短時間で実施できる大動脈弁置換=Sutureless Valve:Rapid Deployment Valve ⇒ 低侵襲大動脈弁置換術へ

2020-12-29 09:40:13 | 心臓病の治療
 高齢化に伴い大動脈弁の病気は増加します。特に動脈硬化によって進行する大動脈弁狭窄症は高齢になるほど発生頻度が増加します。これに伴い、大動脈弁置換術の件数が増加し、より高齢者に対応した経カテーテル大動脈弁設置術=TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)=タビ、もより低侵襲な治療として広まっていますが、まだ制限がありすべての患者さんに適応できるわけではなく、いまだに心停止下に大動脈弁置換術を必要とする患者さんが多いのも事実です。またTAVIの長期耐久性に疑問が持たれている為、まだまだ大動脈弁置換術の重要性は大きいと言えます。
 大動脈弁置換術も、同時に進化しており、より低侵襲な方法が行われるようになっています。特に胸骨正中切開しない側方小開胸で行う低侵襲アプローチは、術後合併症が少なく早期に回復、退院、社会復帰ができる手術方法として、横須賀市立うわまち病院でも約半数の患者さんに実施しています。このアプローチは神奈川県内で実施している施設は少なく、まだまだ普及しているとは言えませんが、これは手技的に側方開胸で大動脈弁尖を切除し、弁輪を削り、糸かけ、弁の縫着のための糸結び、すべての手技が視野確保から実際の手技まで非常に難しく、心臓手術に習熟した医師にか実施できないこと、また教育目的に大動脈弁置換術は多くの大学病院では若手の手術機会を与えるための手術になっているためであると考えられます。
 ここで、今年から新たに始まったSutureless Valveはこのトレンドを大きく変える可能性がある手術方法です。これは文字通り、Sutureless=縫わないために、難しい糸かけ、糸結びが不要になり、この人工弁移植にかかる時間が半分以下になる方法で、Rapid Deployment Valveとも言われます。このRapid Deployment Valveで認可された人工弁にはEdwards社製のIntuityと、LivaNova社製のPercevalがあります。それぞれ特徴がありますが、どちらも人工弁の設置が1分ほどで終わってしまうため、通常60-100分かかる心停止時間が半分以下で終わります。先週、その両者の手術見学に行ってきましたが、通常の半分の時間で終わる手術手技に驚きました。筆者の大動脈弁置換術の最短時間は140分で、国内でも速い方と思いますが、見学した後輩医師が執刀した手術はなんと90分ほどで終わってしまい、驚きました。心停止時間も30分前後と通常の半分以下です。従来の胸骨正中切開でのアプローチでしたが、明らかに時間短縮という意味で低侵襲手術と言っていいと思います。
 これだと縦に一日2~3件の手術実施が可能となります。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも2021年1月からこのRapid Deployment Valveを右小開胸アプローチでの大動脈弁置換術に採用してより低侵襲な手術を進化させていく予定です。
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