横須賀うわまち病院心臓血管外科

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急性大動脈解離の発症は朝に多いのか?Chronological Medicineは現代社会に当てはまるのか?

2018-11-16 06:03:06 | 心臓病の治療
 Chronological Medicine=時間医学は、生体の日内変動と病気の発症や、治療効果が最も高い時間帯が存在することを応用するものです。
 
 朝起きて、食事をして、日中働き、夕方に仕事を終えて、夜に就眠。こうしたサイクルを人間は毎日繰り返していく中で、このサイクルに最も適応するように体のホルモンや循環なども変動しています。その代表の一つが血圧の日内変動で、就眠中は血圧も心拍数も低く、目覚めた直後が一日で血圧が最も上昇するモーニングサージがあり、そのあと徐々に安定する。日本人の場合は、二峰性のパターンをとることが多く、夕方から夜にかけてもう一つのピークがあるといわれています。欧米の生活パターンでは、血圧のモーニングサージがあり、そのあとは安定して別のピークはない一峰生であると大学の授業で勉強しました。
 それに比例して、心筋梗塞や脳卒中(くも膜下出血や脳出血など血圧に関係する急性脳疾患)は朝に発症することが多い、と言われ、また脳梗塞は夜に作られる(就眠中に血圧が低下して脳灌流も低下してる上、就眠中の水分無摂取による脱水傾向が関与)とも言われています。

 それでは、心臓血管外科で扱う急性疾患も日内変動や実際の行動と関係あるのでしょうか?以前、急性大動脈解離の発症時刻を100例ほど調べたところ、血圧の日内変動と同じように朝と夜のピークがあり、日内変動に一致するのではないか、という仮説で、日本胸部外科学会の総会に発表演題として応募したことがありましたが、残念ながら採択されず却下されました。症例数が少なかったせいか、採択する委員の先生には興味を持たれなかったのかもしれません。腹部大動脈瘤破裂で同様に調べたところ、こちらは症例数が少ないせいか、バラバラでした。それから10年以上してから、たしか300例ほどの症例を発症時刻、転帰、気温、気圧なども含めてまとめて発表、論文にもしているのを見たことがあります。ここではやはり寒い時期に多い事や、気圧の変動と関係があるのでは?と推測されていました。血圧が上昇する時間帯は明らかに循環器救急疾患の発症リスクが高まるタイミングであることは間違いないでしょう。なので、こうした時間帯は血圧の自己測定を繰り返したり、リラックスする時間を設けるなど、体を防御的な行動をとるよう心がけるタイミングでもあると思います。

 たしかに、血圧サージの時間帯に発症していると思われる急性大動脈解離の症例も多く見受けますが、日常診療をしていて感じるのは、あまり関係ないのではないか、ということです。これは現代人の生活パターンが多様で、覚醒したり活動している時間帯がばらばらであることが原因であるかもしれません。24時間オープンのお店も多い中、24時間働いている人が存在し、また、そこを利用している人も数多くいます。血圧サージの時間帯がバラバラなのかもしれません。また、入浴中に発症したり、ジムでベンチプレスをしている時に発症、ゴルフ中にグリーンの上で発症したり、警察の取り調べ中に発症した、という患者さんもいて、血圧変動と関係あると思われるひともいます。しかし、その一方で、就眠中に胸痛で目覚めた、とか、知り合いと会話中に突然意識消失した、などの安静中の発症も少なからずいます。

 急性大動脈解離の発症には血圧のサージだけでなく、平均血圧の上昇や血管の脆弱性の問題など、瞬間的な血圧上昇以外のファクターも発症に関与するのかもしれません。

 明らかと思われるのは、発症する日は、各地で同時多発的に発症するということです。これはやはり天気や気圧などの天候要因がやはり強く関与している為と思われます。
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