普段、我々大人はあまり飴を口にしない。
何かの拍子でテーブルの上に置いてあったとしても、滅多に手を出したりしない。
ところがこれがサクマのドロップだったらどうなるのか。
サクマのドロップは例のブリキの缶に入っている
タテ約10センチ、横8センチぐらいの缶で、全体をブリキで密閉していて上面の片隅に小さくて丸いフタがしてある。
サクマのドロップが懐かしい。
ドロップというより、ドロップ缶が懐かしい。
サクマのドロップ缶のフタは簡単に開かない。
スプーンの柄の先をフタの下に押し込み、テコの原理で押し上げるとパッカンと開く。
このパッカンの瞬間がとても嬉しい。
ポコッ、という感じで取れるところが嬉しい。
缶を逆さにして開いた穴のところに左の手のひらをあてがってカランカランと振る。
硬いドロップがブリキの缶に当たって発するカランという音で、オジサンは喜ぶ。
そうすると意外にも、最初のカランではドロップは落下しない。
「おや」という思いでもう一度振ると、今度は手のひらにドロップがポトンと落ちた感触がある。
この「ポトン」が嬉しい。
オジサンはポトンと手のひらに落ちたものを一刻も早く確認したい。
赤なのか緑なのか一刻も早く確認したい。
オジサンはパッと手を拡げる。
オレンジである。
オジサンはそのオレンジをポイと口に入れる。
「うんうんこのオレンジ、このフルーツっぽい味」
人間の味覚や臭覚は一瞬のうちに古い記憶が蘇る。
このドロップの味がオジサンの童心を蘇らせる。
「この一缶の中に、何粒入っているんだろう」
普段ならそんな幼稚なことは考えないオジサンなのだが、なにしろ童心に帰ったオジサンは子供のように好奇心がわく。
オジサンは新聞紙を拡げる。
そうしてその上にドロップを振り落とし始めた。
新聞紙の上に落ちたドロップの数は全部で43粒。
この処理が大変でした。