はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

ホテル・ルワンダ(南アフリカ・英・伊、2004)

2006年02月01日 | 映画(2005-06年公開)
映画『ホテル・ルワンダ』より
皆さんはルワンダという国をご存じだろうか?
アフリカのどの位置にあり、
 1994年、そこで何が起こったのかを?

31日、米アカデミー賞のノミネート作品が発表された。

日本からは『ハウルの動く城』が長編アニメ部門でノミネートされた。他に期待された『血と骨』、真田広之出演の中国映画『PROMISE』は惜しくも選に漏れ、話題作『SAYURI』も主要部門のノミネートを逃している。

例年そうだが、アカデミー賞レースで取りざたされる作品の約半分は、授賞式の時点で日本未公開だ。私は華やかな授賞式を、まるで長距離列車に乗り遅れた乗客のように、歯がゆい思いで見ている。受賞式会場にいるノミネートされた映画関係者や観客の興奮や歓びはテレビ画面を通して伝わっては来るが、同時にそれを共有できない悔しさを感じている。昨年もそんな気分の中で幾つかの作品を目にし、それらの日本での公開を心待ちにしていた。

『ホテル・ルワンダ』もそのひとつだ。 しかし残念ながら、アカデミー受賞式の時点では、 日本での興行的成功は難しいと判断されたのか、 日本公開の目処は立っていない、と報道された。
 参考⇒日本公開問題

 ところが、である。20代の若者が発起人となり、 インターネット上で公開嘆願署名運動を展開し、 僅か3カ月で4000通を超える署名を集めて公開を実現させたのだ。若者の豊かな感受性、 行動力、そしてインターネットの情報伝播力には、何もせずに手をこまねく
しかないおばさんは 本当に「参りましたm(_ _)m」とひれ伏すしかない。 偉いぞ!若者!!役に立ったね!インターネット!!

1994年半ば頃まで、私達家族は中東にいた。私達が 日本への帰り支度を始めたのと同じ頃、アフリカ東部のケニアに近い小国ルワンダでは、 対立する部族間で大虐殺が行われていた。僅か100日で 100万人もの罪のない人々が虐殺されたのだ。 これをジェノサイドと言わずして、何と言おう。

 当時の私はその事実を知らなかった。 自宅ではTVを殆ど見ることなく、新聞もタブロイド版の 英字紙と日本の全国紙の衛星版を熱心に読むでもなく、 電話の回線状態すら悪くインターネット環境もなかった当時、私は乏しい情報の中で、子育て中心の毎日を 過ごしていた。

そんな中での虐殺報道である。 当時夫が毎日聞いていたBBCニュースで、 おそらくルワンダの名を何度か耳にはしていたはずだ。 しかし私の関心の外だった。それどころか、 この映画を知って、改めてルワンダの虐殺に 関心を持ったと言っていい。そんな自分に恥じ入るばかりである。

【映画の感想】

このブログでも最近触れたばかりだが、国連を動かしている大国とて第一義的には自国の利益のために動いている。人道的見地の優先順位は思いの外低い。利害関係がないと見るや、見て見ぬ振りも辞さない。そして非大国は自国を守るのに必死で、他を顧みる余裕すらない。1994年のルワンダにおける大量虐殺は、そんな世界がルワンダを見殺しにした結果だ。

映画『ホテル・ルワンダ』は事実に基づいた物語だ。世界の非情ぶりが、そして容赦ない虐殺の経過が、つぶさに語られている。ホテル・ミル・コリンの支配人ポール・ルセサバギナの口を通して、行動を通じて。

ホテル・ミル・コリン。1泊の宿泊代金が当時のルワンダ国民の年収の半分に相当するほどの高級ホテルだ。そこでフランス人上司の下で支配人として働くポールは、対立する民族フツ族・ツチ族の両方に巧みに取り入って、何とか家族の平穏無事だけでも守ろうと日々必死だ。

機転のきく利発さと、時には権力者と堂々と渉り合うしたたかさが何とも頼もしい。劇中のポールの一挙手一投足を目で追いながら、自分だったら、夫なら、どうするのだろうと想像を巡らせた。

危うい民族間の力の均衡が破られた時、ポールや彼の家族、そしてルワンダの無辜の民は、どのような試練に立たされ、いかにしてそれを乗り越えたのか?この映画は、それを目撃する作品である。

ルワンダはコンゴ、ウガンダ、ブルンジに囲まれた小国。

そもそもルワンダという国は多民族国家で、長らく民族間の諍いもなく平和に共存していたらしい。それが18世紀以降王宮の影響力拡大に伴い、民族間で階級格差などが生じたのをきっかけに民族間の対立が起きたと言うのだ。

それを悪化させたのが、第一次世界大戦後のベルギーによる支配だ。国家としてまとまっていたルワンダを分裂させるべく、両民族の容姿の違いをことさら言い立て、民族間に差別意識を植え付け、対立感情を煽ったのだ。

同じ所に住み、同じ言葉を喋り、同じ宗教を信じ、民族の違いを超えて結婚もしているフツ・ツチ両民族は、異なる民族集団としては捉えられない、というのが歴史家、民族学者の見解である。

ここにも、かつての帝国主義国家の植民地政策のツケをいまだに支払わされ続けているアフリカの不幸がある。

霧の中、突き進むバン。道路は起伏が激しく、バンは前後左右に大きく揺れる。その感触の一種異様さは画面からも伝わって来る。それが何なのか、あなた自身の目で確認して欲しい。

本作は無知で無関心な自分の心に、刃のように突き刺さる映画である。自分の偽善や浅慮に容赦ない批判が浴びせられるような感覚を覚える。でも目をそむけてはいけないのだと思う。この作品も、今年イチオシの1本。

【アフリカ問題、戦争の仕組みを描いた最近の作品】
『ザ・インタープリター』『ロード・オブ・ウォー』
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