前売りチケット。表面は通常のタイトルと写真。
裏面が航空券仕立ての面白い趣向。
『パニック・ルーム』から3年、ジョディ・フォスター
久しぶりの主演映画です。
先日のインタビューを見たら、2人の男の子の子育てを
満喫しているようで、息子達とは友達のように一緒に
さまざまなことを楽しんでいるのだとか。
「子供達は、私のことを面白いと思っているみたい」
と笑うジョディは、今は子育てが主で、映画出演は3年に
1本くらいがちょうど良いペースと考えているらしい。
ファンとしては少し残念。しかしそうしたファンの
程よい飢餓感を煽って、映画公開初日の昨日、
映画館はほぼ満席でした。
ジョディ・フォスターは同じ世代。しかも同世代の
エース級と言って良い。その一挙手一投足が気になります。
初めて彼女と出会ったのはマーティン・スコセッシ監督、
ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシー・ドライバー』
でした。精悍で反逆精神を胸に秘めたデ・ニーロ演じる
タクシー・ドライバーに絡む幼い娼婦の役。まだ青い、
幼さの残る身体と不釣り合いなほどの色気を醸して、
ちょっと背伸びする姿が痛々しいまでの少女を好演し、
この作品で彼女は早くも米アカデミー助演女優賞に
ノミネートされています。
1988年26歳の時に、『告発の行方』で主演女優賞を受賞。
その2年後には『羊たちの沈黙』で2度目の受賞。
70年代に人気を博した4大子役の中で唯一大人の女優
として脱皮に成功し、現在もなお活躍するジョディ。
その生き方も興味が尽きません。未婚のまま人工授精で
2児の母親となり、同性のパートナーと共に家庭を
築いていると言われています。
実力ある女優だからこそできる仕事のペース。仕事と
家庭の両立に悩む一般女性とは、そこが大きく違う所。
さて今回の映画ですが、夫を不幸な事故で亡くし、
情緒不安定な状態に陥っている一児の母を演じている。
夫の棺と共にドイツ・ベルリンから米国NYへの帰途につく
飛行機の中で、眠りから覚めると、傍らにいたはずの娘が
いない。彼女は乗務員にも協力を求め必死に娘を捜索する。
前回の『パニック・ルーム』も密室劇でしたが、
今回の上空1万mの航空機内も、ある意味密室状態。
果たして失踪した娘はどこに?乗務員や乗客に尋ねても
誰ひとりとして娘の姿を見た者はいないと言う。
失踪は事実なのか、それともすべては彼女の妄想なのか?
観客は迷い続けることになります。
この映画、すごく感想が書きにくいタイプの映画です。
密室サスペンス劇なので、下手に突っ込むとネタバレに
なりかねない。
ファンとしては、ジョディの熱演は堪能できました。
実際に母親になって、彼女は母子関係に拘りがあるのか、
前回に引き続き、子を守る母親の逞しさを表現することに
なったわけですが、今回はさらに鬼気迫る演技でした。
彼女の迫真の演技をあますことなく見せるためか、
やたらと表情のアップがあり、少し怖いくらいでした。
たださすがに2回続けて母親役だと、次回は少し違う
役柄のジョディを見てみたい気がします。
映画館で見ると迫力ある映像でそれなりに楽しめますが、
物語の展開ではいろいろ疑問に思うところがあり、
純粋なサスペンス劇としてテレビ画面で見た場合、
どうなんだろう?と思います。
以下はネタバレになりますので、
映画をこれからご覧になりたい方はご遠慮ください。
映画の中でも触れられていましたが、
9.11以後は特に、航空機内での人の失踪は重大事で、
乗務員は厳しい態度で捜索に臨むことを義務づけられて
いるそうです。にも関わらず、この作品での乗務員は、
ほぼ全員最初から捜索への協力に誠意が見られない。
さらに9.11以後、アラブ人への風当たりが強くなった
と言われる米国の現状を描くがごとく、この作品でも、
アラブ人への差別意識が露骨に表現されています。
ただ、ここではむしろ、良心的なアラブ人を描くことで、
アラブ人への偏見を払拭する狙いも感じられる。
残念なのは、真っ先にアラブ人に疑いの目を向けた
ヒロインが、最後まで謝罪をしなかったこと。
それがすごく後味を悪いものにしました。
本題に集中するあまり、細部描写がずさんになったのも
気になりました。ハイジャック犯への身代金支払いが
あまりにもあっけなく行われたこと、なぜヒロインの
夫が被害者に選ばれたのかの説明が一切ないこと。
映画の展開としては、飛行機の内部構造に熟知した
ヒロインが被害者でなければならないのはわかりますが。
娘の存在証明は、例えば空港まで送ったタクシー運転手
でもできたのではないかということ(運転手もグル?)。
航空機内と外との繋がりが、唯一チーフパーサーに一任
されていたことも不思議。仕事中に男女の乗務員がイチャ
イチャしているのもあり得ない話(外ならともかく)。
そして、いくら子供の捜索に必死だからと言って、
ヒロインが多くの乗客を危険に晒すような行為に走った
こと。あれだけのことが次々と本当に起こったら、
機内はパニック状態でしょう。
それが容易にできる、というのは現実離れし過ぎです。
以上のように、ツッコミどころ満載です。
サスペンス劇としては優れたものとは言い難い。
良い悪いの批評をする立場にはありませんが、
細部の矛盾が気になって気になって。