
『オール・アバウト・マイ・マザー』
『トーク・トゥ・ハー』
そして、本作
『ボルベール』
ペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作の最終章を飾るに相応しい作品だと思う。始まりはサスペンス・タッチ。全編を彩る赤が色鮮やかで生々しい。粗筋は敢えて知らずに見た方が楽しめると思うのでここでは紹介しない。
母娘3代に渡る因果に、運命の残酷さを感じた。懸命に生きているのに報われない彼女達。しかし、その過酷な運命を受け入れ逞しく生き抜く姿は、人生賛歌とも言うべき味わいに満ちている。

主人公のライムンダを演じるペネロペ・クルスは真性のいい女になった。小悪魔的な魅力に円熟味も加わって(と言っても、まだ33歳!容貌的には監督の要望に応えて”つけ尻”まで装着しお尻を大きく見せたと言う)、今回の母親役も板についている。姉のソーラ、娘のパウラ、故郷の伯母、その隣人のアグスティナなど、彼女を取り巻く女達も皆、ひと癖もふた癖もあってそれぞれに存在感があり目が離せない。その卓越した演技で、全員揃ってカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を獲得したらしい(他に最優秀脚本賞を受賞。ペネロペは米アカデミー賞で堂々主演女優賞にノミネートされた)。とにかくこの映画は女が主役。こんなに男の影が薄い映画も珍しかろう。
故郷ラ・マンチャ(アルモドバル自身の故郷でもある)に吹きすさぶ強風、故郷の善良な隣人アグスティナの言動、ことあるごとに「祖父にそっくり」と言われる娘パウラの目元など、散りばめられた伏線が、物語が進むにつれ収斂されて行く脚本の見事さには思わず拍手。
見応えのある、哀しいけれど人生の滋味たっぷりな、そして「人生何があろうと生きて行かなければ」と励まされる作品とでも言おうか。私自身が40代の女だからこその感想だろうけど。深刻な内容なのに、スペイン人ならではのあっけらかんとしたラテン気質にも救われている。
タイトルのVOLVER(←クリックすると、原詩・英訳詩が見られます) は元々アルゼンチン・タンゴの名曲で、劇中でもペネロペが”フラメンコの最も自由な形式ブレリーア”(と言うらしい)のリズムで艶(つや)やかに歌いあげる(実際の歌唱はエストラージャ・モレンテによる)。この曲の初出は、アルゼンチン・タンゴの創始者でこの曲の作者でもあるカルロス・ガルデルが主演映画で自ら歌ったもので、その後のスペイン歌手の歌唱によって今やスペインでも愛されている曲らしい。世界を巡った末に故郷に戻る男性歌手の心情を綴った歌詞らしいが、映画のストーリーにも絶妙に嵌っている。他に、本作同様”母娘の物語”であるルキノ・ヴィスコンティ監督作品『ベリッシマ』を劇中でさりげなく登場させるあたり、監督の道具立ての巧さが光る。
■『ボルベール』公式サイト
■映画データ(allcinema online)




