はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

Open Society という考え方

2007年06月24日 | 文化・芸術(展覧会&講演会)
 大成した投資家であり、慈善家でもあるジョージ・ソロス氏

 偶然に興味深い番組を目にしたので、ここに要旨を書き留めておく。NHK-BSの「未来への提言 投資家ジョージ・ソロス~国家なき政治家は訴える」というものだ。現在76歳になるジョージ・ソロス氏は最も成功をおさめた投資家のひとりであり、総資産は1兆円を超えるとも言われているが、同時に慈善家としても20数年のキャリアを持つ。番組はかねてより懇意にしている日本の民間シンクタンクの理事長とジョージ・ソロス氏の対談の形をとり、慈善家としてのソロス氏に焦点を当て、その思想、哲学をつまびらかに紹介することを試みている。

 ハンガリーに生まれ育ったユダヤ人のソロス氏は、13歳の時にナチス・ドイツによるユダヤ人迫害に直面するが、著名な弁護士であった父の機転で、彼の家族と周囲の人々は父が用意したニセの身分証によって難を逃れる。戦後彼は英国ロンドンに渡り、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学び、そこで出会った科学哲学研究者カール・ポパー教授(『開かれた社会とその敵』)の思想に多大な影響を受け、彼の慈善事業の母体である財団名にも、ポパー教授の提唱した社会の理想的な在り方を示す言葉、"Open Society"を採用しているほどだ。

 Open Society~開かれた社会とは何か?彼曰く、それは(いかなる原因・理由によっても)誰もが生命を脅かされることなく、自らの力で活路を見出せる民主的社会である。言うまでもなく、その対極にあるのはナチス・ドイツの全体主義や、共産主義社会に代表される、社会体制への批判が一切許されぬ閉ざされた社会である。さらにソロス氏は国家の貧困と荒廃の原因は”悪い政府”にあると断罪。豊かな天然資源を有しながら、独善的な悪政によって紛争の絶えない国々の政府(アンゴラ、スーダン、コンゴ等)を名指しで非難する。

 ソロス氏は”開かれた社会”の実現を目指して、50代に自ら立ち上げた財団 Open Society Instituteに、年に4億ドル(480億円)という莫大な私財を投じ、援助活動を展開。当初は母国ハンガリーに大学を設立、ロシアの医療設備の充実のために5億ドル(600億円)、ウクライナに教育費用として100億円相当など、ルーツである東欧諸国への援助やその民主化支援が主だったが、徐々にフィールドを広げ、今ではアフリカ、東南アジア等世界の貧困地域に1500人のスタッフを擁し、世界で感染者が4000万人を超えたAIDSをはじめとする感染症対策、貧困撲滅に力を注いでいると言う。これまでに財団が活動のために投じた金額は総額7200億円にのぼるらしい(桁が大き過ぎて庶民の私には今ひとつピンと来ない…(^_^;))

 ソロス氏の行動哲学は明快である。師の思想を踏襲し、「人間はけっして完璧な存在ではなく、人間の行うことに間違いはつきもの。その誤謬性を自覚し、常に”自分は間違っているかもしれない”と自己批判を忘れないことが重要だ」と説く。これは慈善活動、ビジネスに共通して氏の行動の指針になっていると言う。だからこそ、9.11直後の米国社会の在り方には懐疑的だった。”テロとの戦い”のテーゼの下、それに異を唱えることを許さない空気。そうしようものなら”愛国心に欠ける”と非難された、あの閉ざされた社会の空気。

 氏は言う―イラク戦争は誤りである。米国はそれを認めて是正すべきだ。軍事力があれば、自分達の考え方を押しつけられると考えるのは間違っている。国際関係とは軍事力のみに頼るのではなく、国際協力によって築かれるべきものである。同様にビジネスの世界でも、市場原理主義は危険だ。現状は全てが市場に依存し過ぎであり、それを監視する仕組みさえない。要はルールやバランスが大切なのだ。何事も行き過ぎは不均衡をもたらす。

 現在我々が直面するHuman Security~人間の安全保障に関わる問題への対処にも、国際協力が欠かせない。AIDS感染拡大問題しかり、地球温暖化しかり、核兵器拡散しかり…しかしまた、そうした困難が、国際協力を推進する原動力にもなるのだと思う―”(競争”ではなく”協調・協力”の社会へ、今、国際社会は方向転換を迫られているのかもしれない。日本はその逆を行っているように思えてならないのだけど…)

【ユダヤ系ハンガリー人つながりで…】
ピーター・フランクル氏講演会抄録
ピーター・フランクル氏講演会抄録(2) 
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