はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

『アイ アム ア ヒーロー』(日本、2016)

2016年05月13日 | 映画(今年公開の映画を中心に)


 R-15指定のホラー色強い映画だけれど、大泉洋の持前のキャラクターの明るさで、辛うじてデート・ムービーでも行ける作品

 本作、広義で「ゾンビ映画」にカテゴライズされるようです。日本ではなかなかゾンビ物はヒットしないと言われる中、現時点で興収15億円に迫るヒットらしい。

 私は基本的に血しぶきがドバーッと出るスプラッター映画は苦手なのですが、たまたま最初に(日本未公開なのでテレビで)見たゾンビ映画が、コメディ・タッチのサイモン・ペグニック・フロスト主演の『ショーン・オブ・ザ・デッド』(英、2004)だったので、以来なんとなくゾンビ映画には抵抗感がなく、王道のジョージ・ロメロ監督作から派生作まで結構数多く見ています。


 ゾンビ映画には、ゾンビ対人間の攻防戦を通じて、人肉を貪り一見残虐に見えるゾンビよりも、人間の方が残酷で醜悪と言う一面が描かれているようで、そのテーマに、単なるホラーを超えて奥深さを感じるんですよね。「その実、一番恐ろしいのは人間なのだ」と。

 当初の設定では能力に限界のあったゾンビが、新作が出るごとに進化しているのが笑えるんだけれど。なんだかんだ言って人間が無敵ですからね。ゾンビもそれに対応しなくては"絶滅"してしまう(笑)。

 本作「アイ アム ア ヒーロー」は例によって漫画が原作のようですが(日本は本当に漫画原作の映像化が多い。それだけ漫画文化が隆盛を極めていて、他国と違って物語の作り手がシナリオ?界、小説界、漫画界に分散されているのでしょう)本作が漫画の実写化作品として画期的なのは、日本映画が従来避けて来た「グロ」を積極的に描いたことにあるようです。


 日本は一時期、運動会でも徒競走で順位づけを避ける小学校があったなど、一時が万事、現実の厳しさや残酷さを見せない「オブラート包み)」体質があって、それは映画の世界でも見られるもの。それは地理的に周囲を海に囲まれたことで、歴史的に外敵からの襲撃の少なかった島国育ちならではの温和な国民性に起因するものなのかもしれません。

 日本にも人々が血で血を争う戦国時代はあり、一般に応仁の乱から徳川開幕までの約150年間続いたと言われますが、片や中国は秦の始皇帝が統一を果たすまで、紀元前に実に550年も続いています。その後も広大な国土のどこかで常に戦争があり、日本とは戦争の経験値が違います。

 しかも日本は、幕末に欧米の列強から開国を迫られ、第二次世界大戦で敗北して米国に占領されるまで、歴史的に他国から支配を受けたことはありませんでした。結局、近代まで他国とまともな戦争をしたことがなく、たまたま日露戦争で勝利したことで自らの力を過信した(「所謂ABCD包囲網で追い詰められて仕方なく」説もある)日本は、成り行きで世界大戦に参戦することになってしまったように見えます。

 人間の喧嘩に例えるなら、幼い頃に同級生との肉体的な小競り合いを通じて"痛み"を知った人間は、大人になって喧嘩をする際、攻撃するにしても相手によって手加減が出来るけれど、そうでない人間は戦い方を知らないので、限度を超えた攻撃で相手に必要以上に大きなダメージを与えてしまう。

 日本が先の大戦時の行為に関して、未だに隣国から執拗に責められているのは、戦争と言う極限状況の中で、恐怖のあまり我を忘れた日本軍が、軍人・民間人見境なく攻撃したことが、恨みを買ったのではないか?これも日本が他国と戦うことに慣れていないため、戦争するにしても踏み越えてはならない一線があること、手加減することを知らなかったのが原因のひとつと言えるのではないでしょうか?(中国が日本を見下す意味で用いる言葉「小日本」に象徴されるように、大陸に広大な国土を持つ中国から見て、「ちっぽけな島国」に過ぎない日本が、「身の程も弁えずに」中国に戦争を仕掛けたことも、中国としては腹立たしいのでしょう)

 もちろん最近は、隣国の政治体制維持の為のスケープゴート的な扱いで、日本が隣国民のガス抜きの理不尽なターゲットにされる側面も否めませんが…(中国も最近は国力が日本を上回ったせいか、「中華思想」を礎とする覇権主義がもたげて来て、何事にも強引な態度で迫って来るのが怖い。米国にもかつてほどの力はないし、日本単独、或は東南アジア諸国と共闘を結んでも、"暴れん坊大国"中国に対峙できるのか心配hekomi)

 ですから、近代から先の大戦までの日本と言う国の好戦的な態度は例外的なものであって、他国による支配によって理不尽な扱いを受けたことのない日本人は、基本的に温和な民族で、行動原理も人間の性善説に基づいたもの(←「平和ボケ」と言われる所以)だと思います。ゆえに映画でも徹底した残酷描写が苦手と言うか、出来ない。

 今回の「アイ アム ア ヒーロー」は、エンドロールでも瞭然ですが、メインのアウトレットモールでの感染者対人間の攻防シーンの撮影を韓国で1カ月間に渡り敢行したことにより、数多くの韓国人スタッフ、キャストが制作に参加しています。

 周知のように、韓国は千年以上もの長きに渡って中国の支配下にあり、民族のアイデンティティに関わるような屈辱的な辛酸を数多く舐めて来た歴史的経緯があります。

 しかも、「朝鮮戦争」以降朝鮮半島は南北に分断され、未だに南北間は「休戦状態(停戦ではないので、いつまた再戦してもおかしくない)」と言う不安定な情勢下にあり、若い男性には徴兵制も義務付けられています。

 そうした経緯が国民のメンタリティに影響を与えないわけがなく、"恨の国"と言われるほど、他国から虐げられ、プライドをズタズタにされて来たことへの恨みは深い(それは"情が濃い"と言う一面も持ち合わせている。外に向けての感情表現も比較的激しく、淡白な日本人を驚かせる)。さらに儒教思想で上下関係に厳しく、地縁を重んじ、日本以上に学歴社会であり競争社会である為、高ストレス社会とも言われています。


 因みに、韓国の執拗な日本叩きは、歴史的に日本に様々な文化や技術を伝えて来たと言う韓国のプライドを、「韓国併合」によって貶められたと言う恨みが、原因のひとつだと言われています。

 さらに上位の中国には長年に渡って虐げられ、今もその精神的支配からは抜け出せず(未だに対等に物を言える立場にはない)、一方、(単に自分達は大陸、日本は島国と言う理由で格付けた)下位の日本には、自分達が血を流した朝鮮戦争の特需で戦後復興を果たされるなど、韓国の日中両国に対する思いには複雑なものがあると思います。

 尤も、近年の電機や自動車産業の台頭で(←これも日本からの技術移転に依るところが大きいけれど)、韓国の日本に対する歪んだコンプレックスは多少解消されつつあるようです。特に高い教育を受け、海外の情勢を知る層は、リベラルな考え方を持っている人が多いとも聞きます。



 私は韓国と言う国自体はあまり好きではありませんが、韓国映画の完成度の高さは評価していて、日本公開作はよく見ています。

 これまで当ブログで何度も言及して来ましたが、韓国映画のエログロ描写は対象に対して容赦なく徹底していて、その迫力はハリウッドを凌駕していると思います。今回、本作のグロ描写が高く評価されているのは、この韓国が制作に関わったことと無縁ではないでしょう。

 非アジア圏の人々から見れば、外見は区別のつかない日本人と韓国人ですが(日本人から見ると、韓国人は大陸育ちと言うこともあってか、男女共に上背があり、骨格もしっかりして見える。筋肉のつき方も違う)、その内面は大きく異なります。

 常に隣にある大国からの圧力を感じ、同じ民族でありながら戦争状態にある隣国との関係でも緊張を強いられ、成人男性の殆どが実践的な軍事訓練を受けている韓国人は、「暴力」の何たるかを知っています。具体的にイメージも出来るのでしょう。一般的に「暴力」が想像の域を出ない日本人とでは、暴力に対する耐性も違うでしょう。そこが映画における暴力表現の具体性や残酷描写の徹底性にも、日韓の間に差異を生んでいるのだと思います。

 また、ドラマツルギーと言った技術的な面でも、韓国は日本に先駆けて創設された映画大学で培って来た実績があり、こと映画制作に関して、日本は韓国から学ぶべきことが少なくないのではと考えます(もちろん、日本にしか作れない、日本だからこそ作れる映画もあるにはあります)。 

 韓国映画のハリウッドや日本によるリメイク作品がオリジナルを超えて優れていることは殆どなく、日本映画の韓国によるリメイク作品がオリジナルを超えていると言うのは、残念ながら傾向として見られます。それぐらい近年の韓国映画の水準は高いです。 

【参考:韓国映画レビュー】

chain「母なる証明」(2009)
chain「ポエトリー アグネスの詩」(2010)

 キャストでも韓国人の起用が効いています。特にクライマックスの攻防戦で印象が強烈だった、脳の半分を失ったアスリート役のスキンヘッド筋肉質男は、実は韓国人ダンサーらしい。あの人並み外れた跳躍力と柔軟性は、本職がダンサーだったからなのかと、後で知って納得。


 メインキャストに関しては、主演の大泉洋さんは素晴らしい。彼が醸し出す軽妙洒脱な雰囲気は、他の誰も持っていな彼の持ち味であり強み。シリアスな場面でも笑いが起きるのは彼独特のキャラの賜物でしょう。しかも今回はヒーローですから、「かっこいい」と来ている(実はスタイルも良い)

 今後も益々活躍するだろうと期待しています。特に彼の主演で映画が見たい

 実写版「ルパン三世」なんて、もう少し若かったら嵌り役だっただろうなあ…(小栗旬版を見たけれど、彼の場合、クールな面だけが強調されて、ルパン独特の軽みがないのが残念)

 有村架純ちゃんは前半はともかく、後半の使い方はもったいない気がしました。

 例えば、クライマックスの攻防シーンで、大泉洋さん演じる鈴木英雄がピンチの時に助けるなど、もっと活躍の場があれば良かったのにと残念。

 彼女は特に演技が上手いという訳ではないけれど、"旬の女優ならではの輝き"を持っていると思います。今の時代のアイコンのひとりでしょう。

 東宝の"姫"こと長澤まさみ嬢は昨年の「海街Diary」でも好演していたけれど、今回は今回で精悍な役柄が、彼女の伸びやかな肢体にマッチして印象的でした。

 東宝シンデレラ出身で容姿に恵まれているだけに、役柄も何となくワンパターンになりがちでしたが、(プライベートでもいろいろな経験を積んだようで)漸く自立した大人の女性として様々な役柄に挑戦できる年頃になって、今後は役柄の幅が広がりそうですね。厳しい演出家の指導の下、舞台経験なども地道に積んで行けば、演技力も磨かれるでしょう。
 
 これまでの経験を糧に、自信を持って前に進んで行って欲しいです。東宝シンデレラ史上、ポテンシャルは最高の女優だと思うので。


 本作は世界の三大ファンタスティック映画祭すべてで受賞とのことで、世界でも認められた作品のようです。日本発(チョット韓国風味)の本格的なゾンビ?映画。その迫力を、多くの映画ファンに楽しんでもらえたらと思います。


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