はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

日本沈没

2006年07月31日 | 映画(2005-06年公開)

京都タワーが、五重塔が、新幹線がぁぁぁ…

成田空港から海外へと旅立つ人々の様子を捉えた
ニュース映像を見て、ふと思うことがある。
日本人の海外渡航が年間1000万人を超えてから久しいが、
こうして毎年多くの日本人が大手を振って海外へ行けるのも、
日本という国家が安寧だからこそなのだ
、と。

その国家の安寧を支えるのは、
もちろん日本国民ひとりひとりの存在であるのは間違いないが、
日本を日本たらしめているのは、
その国民が日々踏みしめている日本列島の存在なのである。
意外なことに、そのことを、日頃意識することは殆どない。

かつてユーラシア大陸の一部だった日本列島は、
地殻変動によって大陸から分離し、私達日本人が便宜的に
北海道・本州・四国・九州と呼ぶ4つの比較的大きな島と
数千に及ぶ小さな島々から成る諸島となった。
大陸からの分離によって自然環境は一変し、
南北に長い列島であることから多少の地域差はあるものの、
比較的穏やかな温帯性気候(一部亜熱帯)を有するようになった。
これが日本列島の豊かな風土を育み、
そこに暮らす人々の暮らし方、ひいては気質にまで
影響を及ぼしたと言えるだろう。

その美しく、豊かな自然を有する日本列島が、
未曾有の災害と共に海に没することになったら…
という仮説の下に書かれたのが、
小松左京の小説『日本沈没』だった。

先頃公開なった『ダ・ヴィンチ・コード』もそうだが、
小説が映画化されるアドバンテージは、
何と言っても小説の読み手に委ねられたイメージが、
映像化によって明確に補完されることだと思う
(モットモ作品によっては、これも良し悪しですけどね)。
映画『日本沈没』で言えば、科学的検証によって予測しうる
日本列島の沈没と、それに伴う日本という国家の崩壊の
プロセスを第三者的に観察できることだ。

それは恐怖のシミュレーションに他ならないのだけど。
そして、こうしたシミュレーションは映画館で見ないことには
効果が半減どころか、臨場感ゼロ。これは映画としての出来・
不出来以前に、我が国の惨状を大画面で予見?する為の作品。


火山噴火により全土が真っ赤に燃え上がる日本列島

私にとって最も衝撃的だったのは、やはり国土がなくなることで、
日本人が日本人としてのアイデンティティを喪失すること
(自分が今住んでいる地域が、初期段階で跡形もなく海の底に
消えていることに関しては、何となく予想はついていたので、
比較的冷静に受け止めることができた)

具体的には、今私達が保証されている日本国民としての尊厳が、
海外では手のひらを返したように認められなくなり、
いかなる国でも厄介者扱いされること。
某国の政権崩壊によって、100万人単位の難民が
押し寄せて来るのをどう防ぐのかという話が
まことしやかに語られるこの国で、フィクションとは言え、
数千万人単位の避難について考えなければならない
シミュレーションほど皮肉な話はないだろう。
今なら、国家の混乱によって国を捨てなければならなかった
ボート・ピープルの心細さが少しはわかるような気がする。

未曾有の災害の報が瞬く間に世界に伝えられることにより
貨幣価値や株価は暴落。不動産価値は推して知るべし。
金融機関には多くの預金者が殺到するが、
円建ての預貯金はもはや何の価値も持たない。
そんな中、富裕層はいち早く日本を脱出。
おそらく、こうした有事においては資産格差はもとより、
情報格差が生死を分けることになる
のだろう。
映画の中では、海外脱出組、災害死亡者、生存者の数が
大雑把に見て、ほぼ等分に4000万人ずつとなっていた。
果たして自分はどのグループに入るのか?想像するだに恐ろしい。

映画としては、もちろん人間ドラマにも焦点を当ててはいる。
災害というシチュエーションで出会った若い二人の恋。
互いに助け合う疑似家族。国家の中枢で舵取りをする政治家や、
危機を回避すべく最前線で天災と闘う研究者達の、攻防と葛藤。
多彩な登場人物達の生きざまを通して、映画は問う。
未曾有の災害の只中で、やはり想うのは愛する人のことなのか?
その愛する人のために自分は何ができるか?何をすべきなのか?
そして、日本人としてどう生きるべきか?
あるいは、どう死ぬべきなのか?(ウ~ン、まるで戦時下だね)

そもそも今、なぜ、あえて『日本沈没』なのだろう?
(列島沈没ではなくて、国家沈没の危機?なんてイッテマセンヨ私。)

先日、日経新聞の映画評で、さる高名な評論家があろうことか
この映画の結末まで書いていた。これは禁じ手!面白さも半減だ。
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