Dr. 鼻メガネの 「健康で行こう!」

ダンディー爺さんを目指して 日々を生き抜く
ダンジーブログ

看取る

2008-02-04 | 想い・雑感
時間という概念を知って
人は未来を考えるようになり
自分の死というものも考え得るようになったのだろうか

死を身近なこととして捉えられず
遠ざけるような生活をしている
現代人にとって

死とはいかにも不安で
恐怖を感じるものになっているのだろう

ある程度の年齢になり
病を得て
あるいは年老いて死んでいく
そのような人が息を引き取っていく時間の流れを
身近なものたちが共有する
そういう看取りの時を
手放してしまった多くの現代人にとって
死はえたいの知れないものになってしまったのかも知れない

彼岸へ旅立つものが止めてしまった息を
残された者がしっかり受け取り
生き(息)ていく

そういう時間をできれば病院でも実現できれば良いのだが
本来看取るのは医療の役回りではないような気がする
何よりもしっかり看取るのは残された者の役割であり
それを支えるのが宗教家や哲学者
そしてどうしても必要なら医療者が出て行くというものだと思う

身近な人の旅立ちに寄り添うことは
人生に対する根元的な問いかけになる
その問いかけにたいする答えを考えることは
生活に深みを与える
問いかけに対する確かな答えなんて見つけることができなくたって

癌性リンパ管症

2008-02-04 | 医療・病気・いのち
癌の転移として
リンパ節転移というのがあります
局所から漂い出たがん細胞が
リンパ管という管を通っていき
途中にあるリンパ節という関所で仲間を増やしている状態です

ところが時にリンパ管自体に
がん細胞が充満しそこで増殖することがあります
これを癌性リンパ管症といいます
とくに肺のリンパ管がこんな事態になったときが
臨床上の問題になってきます

しつこい咳
切れない痰
咳による体力の消耗や不眠
そして呼吸困難

肺の癌性リンパ管症を起こすと
予後は1~数ヶ月といわれる厳しい状況です
呼吸困難があまりに強くなってしまうと
睡眠剤を使用して
眠っていただかない限り
その苦しみから解放されないこともあります

肺に癌性リンパ管症を思わせる影が出現すると
時にはびっくりするような速さで
肺全体に広がることがあります
だからそんな影を見ると
虚無感に襲われてしまいますが
まれに抗がん剤の使用で影が消えていくことがありますのであきらめずに
無理の無い治療を行うようにします

抗がん剤の効果も一時的なものでありますが
息苦しさの中で最後を迎えることだけでも
避けてあげられたらと願うわけです

日本製ERというところ

2008-02-04 | 医療・病気・いのち
「ER]というアメリカのテレビ番組をご存知でしょうか
私は5話程度しか見たことがありませんが
その舞台はアメリカのER(救急医療室)
設定はcounty hospitalだったと思うので
いわゆる上流階級の人が運び込まれてくることはないと思われます
だからこそ続編がどんどんでてくるほど話題が尽きないのかもしれません

これを見ていると
ERの医師から他の医師に患者が紹介されることがあります
多くの人は気にしてないかもしれませんが
専門医の診療が必要なケースです
救急患者の受け入れ及び治療を行う部門と
さらに専門領域の治療を行う部門との役割分担がしっかりしているのです

ERに運び込まれた患者は
ほとんどER内で治療されている印象を持っている方が少なくないと思いますが
そうではないのです

日本はそこがごっちゃになっています
私は日本外科学会と日本消化器外科学会の専門医ですが
日本救急医学会の専門医ではありません
そもそもその学会にも入っていません
ですから私の立場の人間がERに登場するとすれば
ERから専門科に患者が引き渡される時に
一瞬画面に映るか映らないかという状況のはずなのです
ところが実際は当直の義務があり夜間にはERに引っ張り出されるのです

本来日本の救急室で求められるのは
応急処置であり
必要ならば入院の上翌日専門医にお願いするか
高次医療が必要ならば3次救急病院にお願いするということです
しかしそんな当直医に
今の裁判官は救急専門医であることを求めているような判決を下すことが
少なくありません
脳外科医に確実な心嚢穿刺を求めるような判決なんて信じられないことなのです

ところで通常病院の当直は病棟回診程度が本来の職務であると
厚労省の通達にあります
救急患者を常態的に診療することは通常の勤務になるはずで
現在多くの病院で行われている
当直医による救急対応は
厚労省の通達に準じていない上労働基準法違反の可能性が極めて高いのです
当直の翌日も通常勤務なのですから

ただそれを言い出すと
国がずたずたにしてきた医療体制を
完全なる機能不全に追いやることになることが明らかなので
現場の医師の多くは今のところなんとか踏みとどまっているのです

そんな当直業務を引き受けている上に
専門外の領域での責任まで
それも医学的に言えば責任すらないだろうと思われるところにまで
補償責任を負わされる危険があるとしたら
少々の正義感があっても
そんな職場に近づきたくないと思うでしょう

研修医が専門分野を選ぶ際に
リスクの高い科を避ける傾向を
安易に糾弾するような論調のメディア報道も見かけますが
それはあまりにも現実を知らなさ過ぎる
糾弾するあなたが研修医の立場なら
必ずリスクの高い科を選ぶのでしょうか?と問うてみたい気分です
私自身は外科医という職業が大好きですし
やりがいも感じていますが
研修医にぜひ来いとは言えません

医療というのは現代の大切なインフラのひとつであり
だからこそ様々な矛盾が集まってきます
その矛盾をとくために医師が発言しなければならないことは当然ですが
国民が 政府が 行政が
考えないといけないことなのだと思います

そしてメディアの方にはぜひ深い検証をしていただき
矛盾を抉り出していただきたいと思うのです
表層的な報道なんて要らないと思うのです