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news commentary

海外要人会見

2009-12-15 21:10:35 | Weblog
  地金出し辞表を出せと口に出す北京帰りの小沢上皇

「君は日本国憲法を読んでいるか。天皇の行為は何て書いてある……憲法に。国事行為は、内閣の助言と承認で行われるんだよ」。12月14日の記者会見で、民主党幹事長・小沢一郎は、質問した記者に天皇の国事行為について教えた。

日本を訪れた中国の国家副主席・習近平が、天皇と外国要人の会見は1ヵ月前に宮内庁に申し込むべしという慣例を破って、急遽、日本の天皇と会見することになったことで、内閣が会見を強要したのはおかしい、と宮内庁長官が抗議した。その天皇の政治利用にからむ事柄についての記者会見でのことだった。

質問した記者が憲法を読んでいたかどうかは不明であるが、小沢一郎が日本国憲法をきちんと読んでいなかったことは明らかである。

日本国憲法は天皇の国事行為を①憲法改正、法律、政令及び条約の公布②国会召集③衆議院解散④国会議員の選挙の施行を公示⑤国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証⑥大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権の認証⑦栄典の授与⑧批准書及び法律の定めるその他の外交文書の認証⑨外国の大使及び公使の接受⑩国賓の接遇・友好親善のための諸外国訪問⑪儀式を行うこと――と定めている。

衆議院解散や国会召集をはじめとする天皇の国事行為について、1ヵ月前に宮内庁に予約しなければならないという話は聞いたことがない。天皇と外国要人の会見は外務省が宮内庁に対して1ヵ月目に申し入れるというきまりは1995年ごろにできた。ということは、国賓でない外国要人の接遇は憲法が定める国事行為に含まれていないということだろう。小沢のいう「外国要人接遇は国事行為」は正確ではない。

といって、外国要人接遇は天皇の私的行為ともいえないだろう。憲法に規定された国事行為でもなく、といって私的行為でもない天皇の行為は、一般に「公的行為」と了解されている。国事行為について天皇には内閣の助言に対して天皇の側に拒否権がないとされているが、私的行為にはありうるだろう。では、天皇の公的行為に関してはどうか。

天皇には私的行為と、憲法が定めた国事行為以外の公的行為はいっさい認められないとする意見もあるが、自民党政権下で、外国要人との会見、行事への出席などの公的行為を行ってきた。それらの行為は象徴であることにともなう行為であって憲法に違反しないと説明されてきた。

大日本帝国憲法では天皇は日本の国家元首だったが、日本国憲法では「日本国民統合の象徴」であると規定され元首ではなくなった。したがって、日本の外務省は対外向けの資料で、There is no official head of state. Emperor Akihito fills the post unofficially. (1995、APEC, Osaka 資料)と説明している。

一方で、海外では天皇を国家元首と見なしている。例えば、米国務省のサイトでは、日本についてPrincipal Government Officials: Head of State--Emperor Akihito, Prime Minister (Head of Government)--Yukio Hatoyamaと紹介している。

そういうわけで、日本を訪れる外国要人は、天皇に面会させくれたかどうかで、日本国政府の自分に対する評価の軽重をはかる。誰を天皇と会わせるか。それは政府にとって外交上の重要な判断になる。習近平の天皇面会申し入れが締め切りの1ヶ月を切っていたからといって、胡錦濤の後継者とみられる人物と中国政府の意向をすげなく切り捨てるわけにいかないだろう。

それに、宮内庁のサイトを見ると、天皇・皇后の12月上旬の日程は、①12月1日:勤労奉仕団に会釈、人事異動者拝謁・執務、皇太子夫妻・長女が挨拶②12月2日:外務省総合外交政策局長進講、法務大臣らと午餐、執務、武道大会隣席、展覧会③12月3日ハンガリー大統領と会見・午餐、勤労奉仕団に会釈、厚生大臣表彰者拝謁④執務⑤12月7日(月):国立障害者リハビリテーションセンター式典隣席・施設訪問、構成労働大臣らと会食⑥12月8日:衆議院議長ら挨拶、勤労奉仕団に会釈、執務信任状捧呈式⑦12月9日:新任外国大使夫妻とお茶、皇太子妃挨拶、陵墓監区事務所長拝謁、人事院総裁賞受賞者接見⑧12月10日:在京外国大使らと午餐、人事異動者拝謁、勤労奉仕団会釈、即位20年国民祝典尽力者とお茶――といったぐあい。

この行事日程を見ていると、小沢が記者会見で「天皇陛下のお体がすぐれないと、体調がすぐれないというのならば、それよりも優位性の低い行事を、お休みになればいいことじゃないですか」と言ったのは正しい。中国要人との面会をねじ込めない日程や要件ではないだろう。

内閣からの会見要請に難色を示した宮内庁長官羽毛田について、小沢は「一部局の一役人が内閣の方針、内閣の決定したことについて、会見して、方針をどうだこうだと言うのは、日本国憲法の精神、理念を理解していない。民主主義を理解していないと同時に、もしどうしても反対なら、辞表を提出した後に言うべきだ」と怒ってみせた。羽毛田の首を切りたいのであれば、格好の理由が別にある。

羽毛田は11日、習近平との会見を渋った理由を記者団に説明する中で、天皇の国際親善は、政府のやることとは次元を異にするもので、政治的な重要性、懸案、政治判断を超えたところでなされるべきだ、とし、「陛下の国際親善のなさりようというのは、国の外交とは違うところにある」と言ったと報道されている。

羽毛田は天皇が海外の要人と面会することは、天皇の私的行為であるか、もしくは公的行為であっても、天皇の国際親善は政府のやることと次元を異にしたところで行なわれるべきだと、憲法違反の見解を口にした。このことは長官更迭の理由になりうる。

以上のような小沢と羽毛田の憲法無知のおろかな発言はさておき、話がこじれたのは、別の理由があったと思われる。北海道新聞は、12月9日に日本政府が中国側に天皇の健康がすぐれず会見は難しいと伝え、会見はいったん見送りの方向になったが、中国側からの強い要望と訪中を控えた民主党の小沢一郎幹事長らの意向が反映され、10日に官房長官が宮内庁長官に会見実現を指示した、という筋書きを伝えている。

永田町あたりで天皇の政治利用と騒いでいるのは、小沢一郎が自らの権勢の基盤拡大に天皇を利用したということのようである。だからこそ、小沢一郎は記者会見を開き、高圧的な口調で宮内庁長官を非難して見せたのだろう。そのあたりの詳しい話はいずれ発売の週刊誌でどうぞ。

(2009.12.15 花崎泰雄)


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