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イスタンブールの乱

2013-06-04 01:28:13 | Weblog

イスラムの国はケンカばかりしている――東京都知事の失言・とりこぼしで、オリンピック開催候補地として独走態勢に入ったかに見えたイスタンブールだが、好事魔多し、イスタンブールでデモ隊と警察の激しい衝突に見舞われた。ただし、イスラミストによる騒動ではなく、むしろ世俗派からの、親イスラム中道右派のエルドアン政権への不信の表明である。

ボスポラス海峡を挟んでヨーロッパ側のイスタンブール・新市街の中心部タクシム・ゲジ公園の木を伐採してショッピングモールを核にした商業施設つくる計画に反対する市民が公園にテントを張って抗議活動をしていたところ、警官隊に実力で排除された。

市民たちがこれに抗議して公園に集まると、警官隊が催涙ガスと放水を浴びせ、市民の一部も投石で応じた。アンカラ、イズミルといった他の大都市でも、政府の強硬措置に抗議するデモが発生した。

トルコの新聞のサイトを見ると(日本時間6月3日夜)、エルドアン首相はショッピングモール建設の計画を中止し、代わりにタクシム広場にモスクを建てる計画を新たに発表した。

形勢不利と見たエルドアン政権が、ムスリムカードを切ろうとしている。エルドアン首相の公正発展党(AKP)は保守的な農村部を支持基盤とする中道右派の政党で、最近は親イスラムの政策が目立つようになった。AKPには福祉党、美徳党など憲法裁判所によって解散を命じられたイスラム系政党のメンバーだった政治家が参加している。親イスラムと保守勢力が合体した政党だ。

トルコは世俗政治を国是としている。大学や官庁で女性がイスラムのスカーフを被ることが禁じてきた。スカーフを被っていると大学の講義が受けられなかった。エルドアン政権はイスラム勢力の求めに応じてスカーフを解禁しようとしたが、裁判所から差し止めを受けた事もあった。政権党は親イスラムだが、トルコの裁判所、官庁、軍、大学はアタテュルクのナショナリズムと世俗主義を守る砦である。

また、ごく最近では、国営トルコ航空が女性の客室乗務員に、真っ赤な口紅やネイルポリッシュの使用を禁じ、パステルカラーのものに変えるよう指示して話題になった。夜間の酒類販売を禁止した。これらはエルドアン政権のイスラム勢力への媚である、と世俗派は批判している。

エルドアン政権はEU加盟を念頭に置いた2010年の憲法改正案で、軍と裁判所の政治関与を制限する項目を入れ、国民投票で過半数の賛成を得た。軍を政治から排除することは文民統治の徹底という民主化路線の強化である。国民の98パーセントがムスリムであるトルコで世俗政治が続いてきたのは、軍がイスラムの政治関与ににらみをきかせていたからだ。したがって軍を政治から遠ざけると、イスラムの政治関与が容易になってくる。

現在3期目の首相を務めているエルドアンは、党や政府の同じ役職に就くことを3期に限っているAKPの規約によって、首相の座は今期限りだ。そこで、大統領の権限を強化したうえで、次は大統領の座を目指そうとしているともいわれる。

親イスラムのエルドアン政権の強権性に批判を強めている世俗派・アタテュルク主義者の反感が今回のイスタンブールの乱の底流にあるようだ。トルコの軍部は、極左・極右・イスラム原理主義・クルド民族主義に強い嫌悪感を持っている。過去、政治が混乱するとクーデタで軍政を敷いたこともある。AKPが落としどころを間違えると、オリンピック開催だけではなく、EU加盟の目標も難しくなるような方向へと、坂道をころがり始める可能性もありうる。

(2012.6.4 花崎泰雄)

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