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代言人

2016-06-09 22:25:28 | Weblog


昔々、弁護士のことを日本では代言人と呼んだ。明治時代に入って西洋の裁判制度が導入され、英語のlawyer が「代言人」と翻訳された。「客といふも、大方借金取りか代言人だろふ」(歌舞伎「人間万事金世中」『精選版 日本国語大辞典』)。明治20年代後半から代言人は新しい訳語「弁護士」にかわっていった。

弁護士の職務とは何であろうか。依頼人を守ることである。弁護士職務基本規定(日本弁護士連合会)を見ると、「第21条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」「第22条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重して職務を行うものとする」と書かれている。

桝添要一・東京都知事が依頼した弁護士は、21条と22条の規定に従って、きちんと職務を果たした。政治資金の個人の日常生活への流用疑惑を「違法ではないが、不適切な支出もある」とした結論は、弁護士に調査を依頼するまでもなく、わかりきった結論であった。

というのも、政党助成法は第4条で「国は、政党の政治活動の自由を尊重し、政党交付金の交付に当たっては、条件を付し、又はその使途について制限してはならない」「政党は、政党交付金が国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるものであることに特に留意し、その責任を自覚し、その組織及び運営については民主的かつ公正なものとするとともに、国民の信頼にもとることのないように、政党交付金を適切に使用しなければならない」と定めている。法律の定めるところでは、政党交付金の使途は無制限で、それを適切に使うことは努力義務である。

また、政治資金規正法は第1条で「この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする」としている。第2条では、「この法律は、政治資金が民主政治の健全な発達を希求して拠出される国民の浄財であることにかんがみ、その収支の状況を明らかにすることを旨とし、これに対する判断は国民にゆだね、いやしくも政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制することのないように、適切に運用されなければならない」としている。

この法律もまた、政治資金の使途については制限や規制をかけていない。収支を明らかにして、その是非の判断を国民にゆだねる、としているのみである。

舛添氏の政治資金使途をめぐる疑惑が世間で高まったために、舛添氏は弁護士に依頼して、法律が使途について制限を付けていない金は何に使おうと法律には違反しないという政治家・舛添氏の考え方を、法律家に代弁してもらい、それを第三者の判断だと主張している。とんだ茶番劇だが、参院選を控えていることもあり、都議会での舛添知事の追及は、自公がうんむにゃむにゃで終わらせる可能性もある。

舛添問題のような破廉恥を繰り返さないためには、政治資金の使途について「政治資金をつかって家族で回転鮨を食べてはならない」のような、非政治活動への支出を禁じる項目を政治資金規正法や政党助成法に盛り込むことが必要だ。

それは政治活動の制限に通じることにつながる危険な考え方であると、政治家たちは反対するだろう。だが、アンブローズ・ビアスが『悪魔の辞典』で冷笑したように、政治には「原理原則の争いを装った個人的利益の追求」の面が少なからずある。「人を見たら泥棒と思え」の俚諺があるように、政治の現場で動き回る政治家は、大臣室で業者から現金50万円を無造作に受け取るような相当人間臭い人間である。

このまま放置すれば、有権者の政治不信をますます昂進させ、民主主義政治の根元を朽ちさせてしまう。

ところで、金銭問題で閣僚を辞任した甘利明・前経済再生担当大臣は、睡眠障害という病を得て4ヵ月間も国会を欠席して静養していたそうだが、国会閉会と検察の不起訴の結論を聞いていっきに睡眠障害から吹っ切れ、政治動を再開すると記者会見を開いて語った。蠢動宣言である。

政治家たちが窮地に陥るたびに繰り返しているいわゆる政治入院も、ヒポクラテスの誓い「私は能力と判断の限り患者に利益すると思う養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決してとらない」と無縁ではないだろう。ヒポクリットたちがヒポクラテスの誓いを悪用しているのである。

(2016.6.9 花崎泰雄)

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