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news commentary

島田・丁髷の勧め

2019-09-17 21:58:49 | 政治

最近の朝日新聞にこんな記事が載っていた。

「朝日新聞社の全国世論調査(9月14、15日実施)で、安倍晋三首相の次の自民党総裁にふさわしいと思う人を聞くと、小泉進次郎氏が22%と最多で、石破茂氏の18%が続いた。河野太郎氏と菅義偉氏が共に8%、岸田文雄氏は6%だった」

同じころ毎日新聞に載った記事。

 「森喜朗元首相は11日、小泉進次郎氏が環境相として初入閣した今回の内閣改造について『とりもとったり、受けも受けたりだ。安倍晋三首相は深い。なかなか円熟してきた』と東京都内で記者団に述べた。小泉氏への期待を問われると『未知数だが、成功してもらわないと困る』と語った。(共同)」

戦後の日本の歴史を振り返ると、自民党がほぼ政権を独占してきた。日本では変化を極度に嫌う文化が優勢だから、今後も自民党の政権掌握が続く可能性が高い。つまりは、ポスト安倍の首相候補として小泉進次郎氏が有力になったということである――一新聞の世論調査ではあるが。

 「おもてなし」タレントの妊娠を機に、彼女の夫になると首相官邸でアナウンスしたことが進次郎人気の急上昇につながり、ついでに官邸を結婚発表記者会場に提供した安倍政権の浮揚にも効果があった。昔も国会議員同士が恋愛して、妊娠という「厳粛な事実」を理由に結婚した例がある。一方は既婚者で子どもがいた。園田天光光・直の両氏である。当時は大きな話題、あるいはスキャンダルになったが、だからといって、天光光氏あるいは直氏を首相にという声は上がらなかった。

 トランプ氏のワシントン、ジョンソン氏のロンドンと時をおなじくして、安倍氏の東京も政治的バーレスク劇場になったということであろう。

 小泉進次郎氏は環境相になったのだが、環境相になるにふさわしいどのような見識を持っているのかという点について、森氏は歯牙にもかけなったし、新聞は伝えようとしないし、有権者は知ろうともしない。永田町の政治家も、政治ニュースを報道する記者たちも、省庁の長のポジションにつく人の能力や見識ではなく、長の椅子をめぐる政府機構内の権力の座の争奪戦にもっぱら関心を寄せている。

徳川時代の日本は徳川家を頂点にした諸大名の集合体で、諸大名はそれぞれの支配地で家産制国家の体制を敷いていた。大名の支配地・藩は将軍から与えられた所有物で、それを守るのが大名を取り巻く家産官僚だった。諸大名は将軍家の家産官僚で、それぞれの藩の藩士は大名の家産官僚だった。自民党総裁は日本国首相になり、総裁に従う議員が各省庁の役職者に就任して家産官僚に似たようなものなり、それぞれの議員の選挙区では、地方議員や地元有力者が議員を支えている。自民党議員とその中核になっている世襲政治家グループ、政府官僚が自民党ファミリーを形成している。そのファミリーの維持が政権の第1の目標である。政権の維持によって彼らは日本を所有できる。人民よりも中国共産党を守ることを優先させているお隣の国と、どこか似ている。

第2次大戦後、占領軍が新しい憲法を作り、デモクラシーという考え方を紹介してくれたのだが、どうやらこの国人たちは外来思想とは肌が合わないらしい。家父長制家族国家の政治が好みのようである。「ニッポン株式会社」という集団主義的な言葉を流行させた時代があった。その集団主義に加えて、いまでは上意下達・命令と服従の風潮が著しくなり、「ニッポン前垂れ商店」の時代が始まっている。

 そうだねえ――かつてロンドンやキャンベラ、返還前の香港などでは、裁判官、検事、弁護士が鬘を着用していた。それが職業上のしきたりだった。日本の国会でも議員に島田や丁髷の鬘の着用を義務づけることを勧める。自分たちのやっていることの時代錯誤性を、時々は議事堂内のトイレの鏡をのぞいて自覚するよすがとして。

 (2019.9.17 花崎泰雄)

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