桜を見る会の安倍晋三後援会の案内文について、首相は「幅広く募っているという認識でございまして、募集しているという認識ではなかった」と国会答弁をした。この答弁は「頭は痛いが頭痛ではないと言っているに同じ」と野党議員に揶揄され、予算委員会の笑いをさそった。この手の珍妙な言い回しは、それまで憲法に抵触するとしてきた集団的自衛権を外部環境の変化に合わせて、憲法上問題ない集団的自衛権もある、とした論法以来おなじみの修辞法である。
ひきつづき「桜を見る会」とその「前夜蔡」である安倍晋三後援会の夕食会をめぐる国会問答は、下手な漫才よりよほど面白い笑いを提供し続けている。野党の質問者が「つっこみ」で日本国首相が「ぼけ」の役割を分担して、国会中継の視聴者を笑わせてくれる。
2月3日もついNHKの国会中継を見てしまった。衆院野党会派の辻元清美氏がこの日のトリをつとめ、えいえいやっと切り込んでいく。
辻元氏は2013年からニューオータニや全日空ホテルで催されてきた「前夜祭」は、会費五千円、参加者各自がホテルと契約し、ホテルが参加者それぞれに領収書をわたす「安倍方式」でやったのか、と質問した。
安倍首相は、いずれの年の夕食会もホテル側との合意のもと、一人五千円という価格設定だった。会場入り口の受付で安倍事務所の職員が会費を収集し、ホテル名義の領収書をその場で手交し、受け付け終了後に集金した全ての現金をその場でホテル側に渡す、という形で参加者からホテル側への支払いがなされた。領収書にホテルの担当者が金額などを手書きし、宛名は空欄だったと説明した。
すると辻元氏が、「安倍方式」でやれば政治資金収支報告書に不記載でも違法ではないということを、日本中の自治体議員や国会議員に対して太鼓判を押してほしい、といなおってみせた。
すると首相が安倍晋三後援会としての収入支出は一切ないから、収支報告書への記載は必要ない、と答弁。同じ形式であれば問題ないと考えている、とも答えた。高市早苗総務相が政治団体の収入・支出でない場合は記載の義務はないと念を押した。首相も総務省も衆院予算委員会の場で「安倍方式」にあっけらかんと太鼓判を押すわけにもいかないが、この答弁で認印ぐらいは押した感じである。
首相が地元でやる新春の会では後援会が会費をとり、収支報告書に載せていると弁明すると、すぐさま辻元氏に、じゃあ、なぜなぜ「前夜祭」にかぎって参加者が直接ホテルへ支払ったのか、とつめよられた。
これに対して首相は、後援会の人たちが集まり、食堂なりレストランで割り勘で会費を払った場合は収支報告書には載せない、と「前夜祭」を割り勘の催しであるかの如く説明した。そこで辻元氏が、ホテルの会場を借り切った八百人の会合で、そんな話、聞いたことはない、とあきれてみせる。さらに、辻元氏が、前夜祭の参加者が安倍さんのおかげで、高級ホテルで五千円で飲食できたとなれば買収。ホテルがだいぶディスカウントしてくれたとなったら、寄付を受けているのではないか、という疑いを持たれる。収支報告書を訂正し、追加記載することを求めた。
首相の事務所が「前夜」に参加した人からホテル発行の領収書を集めて開示すれば、疑惑を払拭する一助になるだろう、と辻元氏がつめよると、首相は、領収書は間違いなくニューオータニ側が出しており、違法性はない。あえて後援者から集める必要はないと考えている、と日本国首相の国会答弁が信用できないのかといった態度である。
一般会計総額が過去最大の102兆6580億円に達した2020年度予算案を論じる国会の議論としては金額的にはちまちまとした事柄に見えるのか、桜より予算本体の議論をという声もあるのだが、予算を編成した政権の体質批判を抜きにして、カネの使い道だけを議論するのもむなしい。だって、森友、加計、桜を見る会……仏の顔も三度とやら……。
くわえて、安倍政権は2月7日で定年退官する予定だった東京高検検事長の黒川弘務氏について、半年後の8月7日まで勤務を延長させることを閣議決定している。
報道によると、検察庁法では検事総長の定年は65歳、その他の検察官は63歳と定めている。しかし、国家公務員法では、職務の特殊性や特別の事情から、退職により公務に支障がある場合、1年未満なら引き続き勤務させることができると定めているので、この規定を適用して、東京高検検事長の勤務を延長することにしたと政府は説明している。
検察庁法の定めを国家公務員法の定めでオーバールールしたのだが、野党は黒川氏を次の検事総長に据えるための工作だとして、国会の内外で批判を始めている。野党党首は安倍政権の意に沿い、法務行政を牛耳ってきたと言われていると発言、週刊誌などは安倍政権の番犬を温存したのではないかと伝えている。何のため。黒川氏の定年延長が決まったのは1月31日。定年退官予定日の1週間前だった。その時、政権が心配していた事件はIR汚職事件である。
(2020.2.3)