NHKTV『これでわかった! 世界の今』は子ども向けのニュース娯楽番組である。ニュースを娯楽化して子どものニュースに対する興味をかきたてようとしているのか、娯楽のための素材としてニュースを使っているのか、判別が難しい番組である。ゲストにタレントを起用して、ゲストがケラケラ笑うのだから、これは娯楽番組の要素が強い。
「ブラック・ライヴズ・マター」のどこにケラケラ笑う要素があるのだろうか。ジョージ・フロイド氏殺害と抗議活動についての言葉による説明はともかくとして、笑い事ではない出来事にクスグリの要素をちりばめようとして失敗したのが、この番組で使われたアメリカ社会における黒人差別の動画部分である。
抗議する人々の先頭に立った筋肉質のアフリカ系アメリカ人男性が、豊かな白人と貧しい黒人の経済格差を叫ぶ1分ちょっとの漫画的な動画なのだが、その黒人男性の乱暴な口調や容姿・風貌が、あまりにも黒人差別の固定観念の丸写しと視聴者に批判され、NHKは謝罪した。
「黒人ハ米英ニテ『ネグロ』と呼フ、阿弗利加(アフリカ)洲ニ生スル人種ニテ、容貌の陋醜ナル実ニ甚シ、頭髪ハ巻縮れて黒瘡(コクソウ)ト疑ヒ、肌膚(キフ)の漆黒ナル焦土ノ如シ、唇ハ厚ク突出シ、眼球(メノタマ)ハ微黄ヲ帯ヒ、手掌(テノヒラ)ニ尋常ノ肉色ハ存スルノミ」と『特命全権大使米欧回覧実記』にある。1870年代に、米国の首都ワシントンを岩倉使節団が訪問し、黒人のための学校に案内された時の記録である。アフリカにおける奴隷狩り、米国に運ばれて売買されるまでの苦難の船路、南北戦争・奴隷制度廃止の歴史や、黒人の地位向上のための教育の拡充を図っている様子を説明する記事の中での、当時のアフリカ系アメリカ人の容貌についての日本人の筆による描写である。
このNHK番組の制作者たちは漫画世代だったのかもしれない。マルクスやエンゲルス、フロイトやユング、マンデラやリンカーン、みんな漫画で読破した世代なのだろう。そうしたお気楽ぶりから、フロイド氏殺害の背景にあるアメリカにおける白人と黒人の格差をマンガで説明すれば視聴者の気をひけると考えたのだろう。そこに描かれた黒人のイメージが、1世紀以上も前に日本人が見たアフリカ系アメリカ人の印象と類似のパターンであることに気づかなかった。ジャーナリズムとしての脇の甘さがあった。
あの手の動画ではなく、アメリカ社会における格差の現実を実写映像で伝えておけば、深刻な社会問題を伝えるうえで、動画以上にインパクトの強いものになったはずだ。
社会科学の古典を読む代わり漫画ですませ、新聞を読む代わりに、新聞記事のダイジェストをスマートフォンの小さな画面で済ませる時代が生んだ失策だろう。テレビ放送が生まれると時を同じくしてテレビ受信機をidiot box よぶ俗語が生まれた。
(2020.6.15 花崎泰雄)