こころの文庫(つねじいさんのエッ!日記)

家族を愛してやまぬ平凡な「おじいちゃん」が味わう日々の幸せライフを綴ってみました。

サポーター

2019年05月29日 02時14分16秒 | Weblog
「おはようございます!」
 自分の声なのに、初めて聴くものだった。生活支援サポーター意識のなせる業である。
 軽い気持ちで受講した生活支援サポーター養成講座終了から三か月。初めて務めるサポーター任務で、緊張と高揚感に襲われていた。
「条件にあったサポート依頼なんですが、受けて頂けますか?」
 社協のサポートセンターからの連絡は、登録したことを忘れかかった頃だった。
「あ……っと。は、はい。大丈夫です」
 なんとも曖昧な返答になってしまった。
「登録されてますゴミ出し援助の、ご依頼なんですが、担当願えますか?」
 確かに登録書類の支援項目でゴミ出しにチェックを入れたが、改めて耳にすると、妙な気恥しさを覚える。普段何気なくこなすゴミ出しのサポートをすることにピンと来ない。
「では月曜日の朝、お約束した時間、現地で落ち合いますね。初日ですので、援助を依頼されたお宅へ、ご一緒させて頂きます」
 前夜、なかなか寝付けなかった。遠足を翌日に控えた幼稚園児の高揚感めいたものの仕業である。もちろん約束時間を意識しすぎる生真面目な性格の影響もある。支援サポーター初日への期待と不安は、募る一方だった。
支援サポーターが何たるかの自覚は、まだなかった。養成講座は眠気との勝負で、かなりお座なりだった。支援サポーターのあるべき姿など、いまだ掴めていない。しかし、引き受けた以上、もう逃げられないと覚悟した。
「よろしゅうお願いします。身の回りのこと、自分で何でもやってたんですよ。こないなことで人さんの世話になるのん、申し訳のうて」
 依頼女性の達者な口は、これまでの暮らしの堅実さを裏付けている。高齢になって、体が思いについていかなくなるのが、加齢の正体である。すっかり体力が落ちたのを実感するわが身をダブらせて、依頼者をみた。
「そんなん気にせんで下さい。お互い様です。私かて、すぐ追いつく年齢ですわ。そしたら誰かのサポートに縋らなあきません。そないなるまでは、元気があるったけ、お手伝いできたらと思てますねん」
 昨日まで思い付きもしなかった言葉が、すらすらと口を出る。しかも、胸の内に沸き上がる使命感は本物だった。目の前にした現実が、他人事でないと知ったからに他ならない。
「ほんまにあんじょうしてもろてからに。ごっつう助かってます。おおけにな」
「まだ体が動きよるんで、何でもやりますよ。遠慮せんと言うてください。ただし、出来んことは、こないな私でもやっぱり出来しませんわ。根が不器用やさかい、仕様がおまへん」
 ゴミ出しを終えた後かわす、つかの間の談笑は楽しい。サポーターを引き受けなければ、経験できない、癒される時間だった。
「ほな、これで失礼させて貰います」
「来週も必ず顔を見せてくださいよ」
 サポーター冥利に尽きる嬉しい言葉だった。
コメント
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