1833 患者に臨む
砂時計から落下する砂を見ていると
流れ往く時間に映る。
落ち往く砂は早く
残された砂は少なくなってきた。
老人にとっても
わたしとっても
残された星の砂は
貴重なな時間である。
老人の顔に深く刻みこまれた皺、
節くれだった手指から、
わたしはなにを感じ
なにを話すのか。
病院のなかで“臨床経験”という言葉をよく耳にする。
読んで字の如く「床に臨む」となり
「床」つまりベッドに寝ている人は患者=病人であり
「臨む人」は医師や看護師である。
直訳すると ベッドで痛み苦しみを抱きながら病魔と闘っている患者に対し、
向き合っている医師、看護師は 何を為さねばならないのか。
介護の世界においても同じである。
ベッドは畳(たたみ)一畳の程度の限られた空間のなかで、
寝たきり老人は生活している。
ベッドに臥床(がしょう、寝ている)している老人を目の前にしたとき、
わたしは、どんな言葉をかけてきただろうか。
十年間寝たきりだったある老人がおられた。
長い間、家族から離れ 友人が住む地域からも離れ 独り、じっと耐え生きてきた。
明日のことよりも 今日のことだけを考え精一杯生きてきた。
今日まで生かされてきたのは、彼だけでなく自分も同じであった。
残り少なくなってきたあなたの時間
あなたとわたし 繰り返すことのない時間
あなたに寄り添いながら
いまを生きていく。