小さな植木鉢にベニシジミの幼虫を7匹おいていたら,それなりにいろんな生態を見せてくれます。一つひとつがこの昆虫のすがたを紐解くヒントなので,疎かにできません。
7匹のうちの1匹が,無残な死を迎えました。それだって,生態に迫る貴重な手がかりになるでしょう。今回はそれについて報告します。
この個体,前日の夜はまったく異常が感じられませんでした。
翌朝のこと。蛹化を迎えているのにどうも変化の兆しがありません。同時期に同じ進み具合で蛹になった個体があります。それと比べて,とても遅れていておかしいのです。それで,じっくり変化を見届けてみるかという気持ちになって,カメラをセットして観察を続けました。
そのうちに,頭部・胸部辺りに妙な動きが観察できました。体表をとおして,筋肉が複雑に動いて見えるのです。蛹化間近かと思っていたら,そうではありませんでした。続いて,怪しい黒い影が体内を移動したり,影が薄っすら見えたり,消えたりしました。「ヤッパリ変だ!」と感じてようく見ていると,表皮のすぐ内側を黒い昆虫がすばやく歩いていきました。目にも留まらぬ速さ! あれはハチに違いないと思いました。寄生バチです。
そう思ってさらに観察を続けると,複数いることがわかりました。それがほんの一瞬見えるときがありました。しかし,撮影はできませんでした。(後で写真で確認すると,からだに穴が空いて,そこから黒いからだが見えていたことがわかりました)
そんなことが続いているうちに,ほんの数分目を離した後の話。肉眼で幼虫を見ると,状況が激変! 胸部の背辺りにぽっかり穴があいていたのです。そして,皮状のものが垂れ下がっていました。なんと激しい変化でしょうか。寄生バチが出たあとで,正体を見定めることはできませんでした。そんなことってあるのでしょうか。
いったいどんなハチだったのか,今も気になっています。見逃したとはまことに惜しいことをしました。
たぶん,幼虫期に体内に卵が産み付けられ,今こうして体外に出てきたというのが真相なのでしょう。こんな小さな幼虫にも,さらに小さな天敵がいるのです。それも体内で育つ習性を持つハチが。
こんな生態に出くわすとは思いもよりませんでした。
【追記】幼虫の天敵について
あの日に見た天敵のことが気になって,文献(『原色日本蝶類生態図鑑(Ⅲ)』保育社刊)で調べました。結果,かなりはっきりわかってきました。以下の記述がありましたので,引用しておきます(赤字)。
成虫は花上でクモに捕えられたり,飛翔中にトンボ類に捕食される。幼虫にはカイコノクロウジバエ,サンセイハリバエ,シジミヤドリバエ,アカシジミヒメバエの寄生やシマサシガメにより体液を吸われた例が知られる。シジミヤドリバエやアカシジミヒメバチの寄生率は高く,越冬幼虫193頭中前者17頭,後者9頭,第2回目の幼虫105頭中前者29頭,後者11頭の寄生があったという報告がある。
結局,寄生率は10%~40%にのぼることがわかります。これで納得です。
(6月10日 記す)