WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

立原正秋箴言集(7)

2011年05月04日 | 立原正秋箴言集

 どこの家の庭でも花が開いていた。だが、なんと暗い春だろう、と彼は全身に痛みを感じながら歩いた。(『暗い春』)

 『暗い春』の最後の文章です。大津波に襲われた私の街でも桜の花が咲いています。私の家の庭にも花桃や花海棠が咲き始めています。息子を失った職場の仲間が、どんな思いで咲く花をみるのだろう、と思うと胸が締めつけられます。

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ジャズ来るべきもの

2011年05月04日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 310●

Ornette Coleman

The Shape Of Jazz To Come

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 最近、また悪臭がひどい日がある。家のドア、あるいはクルマのドアををあけると、絶えられない悪臭が入り込んでくる。私などは家のドアからクルマまで息を止めて走って移動する始末だ。数日前、隣町に家族で買い物にいったのだが、私たちの髪の毛や衣服にこの臭いが染み付き、周りの人に臭うんじゃないかと心配してしまうほどだった。その帰り道、妻がしみじみと、「またあの臭い街に帰るのね」といったのが、印象的だった。

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 フリージャズの先駆者といわれるオーネット・コールマンの1959年作品『ジャズ来るべきもの』である。The Shape Of Jazz To Come を「ジャズ来るべきもの」と訳したセンスに熱烈な賛意を示したい。かっこいい……。

 当時はジャズ界に一大スキャンダルを巻き起こした問題作だったようだが、今聴くと、嘘のように聴き易い作品である。私などは全体に漂う叙情性と音の背後に広がる静けさに魅了される。メロディーやハーモニーの感覚もたまらなく好きだ。スピーカーの前に座り込み、じっと耳を傾けるような求道的な聴き方はしない。音量は必要以上に大きくしない。むしろ絞り気味だ。珈琲を飲みながら、あるいは書物や雑誌を読みながらBGMのように聴く。フリージャズの問題作といわれたオーネットの音楽が、とても好ましい穏やかな空間を作ってくれる。気分がいい。それでも、本から目を上げ、じっと聴き入ってしまう瞬間がある。それが音楽のもつ力なのだろう。