WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

ジョン・ハートというギタリスト

2011年05月07日 | 今日の一枚(I-J)

●今日の一枚 314●

John Hart

One Down

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 何度も同じ話をするが、3・11と4・7の地震によって、現在、私のCD棚はカテゴリーも演奏者もバラバラで、どこに何があるのか探すのがとても困難な状況である。したがって、最近はたまたま目についたものを取り出すようになっている。しかし、怪我の功名というべきか、普段あまり聴かない、「そういえばこれあったな」、という感じの作品に再びめぐりあうことがある。

 このCDもそうだ。ジョン・ハートの1988-1989録音作『ワン・ダウン』。レーベルはブルーノート、輸入盤である。確かに自分でこのアルバムを買った記憶はある。購入したのは、作品がリリースされた1990年ごろだと思う。しかし、どこで、またどんな経緯でこのアルバムを購入したのかどうしても思い出せない。そもそも私はこのジョン・ハートという人を知らなかったし、実のところ今でも知らないのだ。恐らくは、ショップで見て衝動買いしたのだと思うが、失礼ながら、ジャケ買いする程魅惑的なジャケットでもない。輸入盤なので、帯もついておらず、宣伝文句に惑わされた訳でもないと思う。謎だ。

 悪くない。ストレイトアヘッドなジャズである。爽快だ。奇をてらわない正統派のジャズギターが好ましい。シンプルなサウンドだが、疾走感がたまらなくいい。ギター・ソロも4曲あるが、なかなか雰囲気のあるギターを弾く。⑪ Ruby My Dear などジーンときてしまった。気持ちのいい一枚である。

    John Hart (g)

    Chuck Bergeron (b)

    John Riley (ds)

    Tim Hagans (tp)

    Rick Margitza (ts)

 ジョン・ハートについて知っている人がいたら是非教えてください。


インタープレイ

2011年05月07日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚 313●

Bill Evans

Interplay

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 有名なのに不思議にあまり聴くことのないアルバムというものがある。私にとって、ビル・エヴァンスの1962年録音作『インタープレイ』はそんなアルバムの一つだ。

  ビル・エヴァンス (p)

  フレディー・ハバード (tp)

  ジム・ホール (g)

  パーシー・ヒース (b)

  フィリー・ジョー・ジョーンズ (ds)

 ビル・エヴァンスが自らのリーダー・セッションに初めてホーン奏者を迎えたアルバムであり、お家芸のインタープレイを、ピアノトリオではなく、クインテット編成で追究しようとした作品といわれる。評論家筋の評価もそれなりに高い。バンドのメンバーも有名どころだ。けれども、私はビル・エヴァンスを聴こうと思ってこのアルバムを取り出すことはほとんどない。エヴァンスを考える場合、重要なアルバムなのかもしれないが、私の聴きたいエヴァンスがそこにはないからだ。結果、このアルバムは私のCD棚の片隅にもう恐らくは20年以上も放置されたままだった。プロデューサーのオリン・キープニューズの回想によれば、このアルバムが録音されたのは、スコット・ラファロの死後、エヴァンスが一層多用するようになった麻薬の購入資金を得るためだったようだ。だから、クインテット編成によるインタープレイというのも、どちらかというと、プロデューサー側の企画だったのかも知れない。もちろん、そのことが内容の価値を下げるものではないが……。

 その滅多に聴くことのないアルバムをなぜ今日取り出したのか。3・11と4・7の地震によって、現在、私のCD棚はカテゴリーも演奏者もバラバラで、どこに何があるのか探すのがとても困難な状況である。したがって、最近はたまたま目についたものを取り出すようになっている。怪我の功名というべきか、普段あまり聴かない、「そういえばこれあったな」、という感じの作品に再びめぐりあうようになったわけだ。

 さて、『インタープレイ』である。エヴァンスを聴くためにあえて取り出す作品ではない、という認識にかわりはないが、典型的なハードバップ作品という観点からはなかなか面白いのではないか。とてもスウィンギーでノリがよく、ミディアムテンポの演奏がうまいエヴァンスの特質が意外と生きているのではないだろうか。バラード演奏もしっとりとしてなかなかよい。若きフレディー・ハバードの瑞々しい演奏もいいし、ジム・ホールのギターはさすがに存在感がある。いいじゃないか。なんだか得をした気分だ。『インタープレイ』というタイトルだが、私にとっては鬼気迫るような緊張感を感じる演奏というよりは、リラックスして楽しめる良質のハードバップ作品だ。

 ところで、このアルバムのCDケースもひびや傷だらけである。CDケースを買い換えるには、破損したケースがあまりに多すぎる。CD棚の整理はいつやろうか。余震はまだまだおさまりそうもない。


アシンメトリクス

2011年05月07日 | 今日の一枚(G-H)

●今日の一枚 312●

Helge Lien

Asymmetrics

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 最近、夜中に目が覚め、そのまま眠れなくなってしまうことが多い。妻はアルコールのせいだというが、それ程飲んでいる訳ではない。今日もそんな夜のようだ。仕方がないので、音量を絞って音楽を聴くことにした。 

 ノルウェイのピアニスト、ヘルゲ・リエンの2003年作品『アシンメトリクス』。写真でみるこの人物の風貌はあまり好きになれない。俗物に見えてしまう。けれども、彼が奏でるピアノは好きだ。ヘルゲのピアノの響きを聴いていると、私はいつも「端正」という言葉を思い浮かべる。とても繊細で、しかも何というか折り目正しい響きだ。しかし一方、アバンギャルドな演奏もこなす。この作品でもそういった彼の資質は存分に発揮されているようだ。やはり、才能のある人なのだろう。

 ① Spiral Circle 、夜の静寂の中に、ピアノの響きが溶けていく。こういう旋律を奏でるヘルゲ・リエンが本当に好きだ。