WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

12ページの詩集

2011年06月19日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 316●

太田裕美

12ページの詩集

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 極私的名盤である。一般的にはもはや1970年代アイドルの作品のひとつという評価なのかも知れないが、私にとっては、これまで取り上げたジャズやロックと同様、大きな影響を受けた作品である。「極私的」と記したが、これを削除してもかまわないだろう。内容も非常に優れているからだ。

 太田裕美の1976年録音作品『12ページの詩集』である。それまでの松本隆&筒美京平路線とは一味違う新生面を模索すべく企画された、12人の作曲家の楽曲を太田裕美が歌うという趣向である。全編のトーンが失ってしまった青春の日を追憶するノスタルジアに統一されており、70年代ノスタルジアが凝縮されたようなジャケットもいい。素晴らしい出来の作品である。これこそ私にとっての太田裕美的世界だといっていい。『手作りの画集』とともに、太田裕美の最高傑作と断言したい。

 私にとっては、かつては名曲「君と歩いた青春」を聴くための一枚だったが、ある年齢になってからはすべての曲がそれぞれに心の深いところにしみこむようになった。特に、荒井由美作曲「青い傘」と、佐藤健作曲「一つの朝」の織り成す音楽世界は筆舌に尽くしがたい。

 LPもCDも所有しているが、最近はより手軽なCDで聴くことが多い。けれども、その音楽世界をより忠実に再現するなら断然LPである。音の柔らかさ優しさが際立ち、針のノイズも含めて1970年代にタイムスリップするようだ。私は時々思うのだが、古い音楽は、その時代の媒体で、できればその時代の再生装置で聴くのが、基本的には最もよい聴き方ではないだろうか。

 いづれにせよ私は、これからも折に触れて、この作品を聴き続けることになると思う。