◎今日の一枚 574◎
日向敏文
夏の猫 Chat 'd Ete
『鎌倉殿の13人』の話題である。
先週の放送で、北条政子が、源頼朝の愛妾の亀の前が住む屋敷を襲わせた場面があった。亀の前が預けられている伏見広綱の屋敷を襲撃させたのだ。《後妻(うわなり)打ち》である。《後妻打ち》は、平安中期から江戸前期にかけて実在した慣習であり、女友達を大勢呼び集めて、夫を奪った憎い女の家を襲撃して徹底的に破壊する行為だ。ときには相手の女の命を奪うこともあったようだ。興味深い風習である。「うわなり」とは、古語で前妻を意味する「こなみ」に対する後妻、あるいは第二夫人・妾を意味する言葉だ。清水克行『室町は今日もハードボイルド~日本中世のアナーキーな世界~』は、いくつかの事例をあげて《後妻打ち》について詳述しており、やはり広く実在した慣習のようだ。
清水氏は、《後妻打ち》は中世の女性に当たり前に許されている行為だったとして、この妾襲撃事件が政子の嫉妬深さや男まさりな性格を際立たせる材料として使われることに不満の意を表している。もっとも、『鎌倉殿の13人』では、政子はそんなに派手にやるつもりはなかったものの、源義経が勝手に大規模な破壊活動を行ったものとして描かれている。《後妻打ち》という、中世に広く実在した慣習に配慮したのかもしれない。
いずれにしても、大河ドラマでこういった中世の慣習が描かれるのは興味深いことである。
今日の一枚は、日向敏文の1986年作品、『夏の猫』である。若い頃、日向敏文の作品をよく聴いた時期があった。きっかけは、大貫妙子の作品に日向敏文が参加していたことだったように記憶しているが、貸しレコード屋で借りたレコードを録音したカセットテープでずっと聴いていた。たまたま、apple music で発見し、外付けUSB-DACを通して聴いている。懐かしい音楽の響きである。昨日からちょっとイライラしていたが、おかげで心が穏やかになってきた。狂おしくも美しい④ 孤独なピアノや、印象的な⑥異国の女たちは出色である。