◉今日の一枚 430◉
渋谷毅 & 平田王子(LUZ DO SOL)
太陽の光
apple music をいじっていたら、面白い作品が目にとまった。渋谷毅と平田王子によるユニット、LUZ DO SOL(ルース・ド・ソル)の第三作、2011年作品の「太陽の光」である。
アルバムの最後に収められた「生きがい」がいい。1970年に由紀さおりが歌ってヒットした名曲である。いい曲だ。平田王子の訥々とした歌い方が曲の魅力を引き出している。それにしても、なぜ「生きがい」をと思って調べてみると、なんとこの曲を作曲したのは渋谷毅だった。そういえば、子どもたちが幼いとき、子ども番組で聴いた「夢のなか」という曲がいい曲だなと思っていたら、なんと渋谷毅作曲だった。恐るべし渋谷毅。
このユニットのライブを、私の住んでいる街のヴァンガードというジャズ喫茶で見たことがある。2007年のことだ。そのときの渋谷毅は特異な存在感を放っていた。ジーンズによれよれのシャツとジャンパーを着た渋谷毅の風貌は、地元のさえないおじさんと区別するのが困難なほどだった。開演前に狭い会場の客席を落ち着きなくうろついていた渋谷毅は、マスターからコップ酒をもらうと、それを飲みながら寡黙にピアノのある方向に歩き出した。
平田の演奏が始まっても、渋谷毅はピアノの前に立ったままだった。髪の毛をかきあげながらじっと譜面を見つめていた。そのうち、おもむろに椅子に座ると、抜群のオブリガードで平田の音楽に合わせていった。渋谷毅の指先からは、端正で流麗な美しい音色が紡ぎだされた。曲が終わると、髪をかき上げながら、ピアノの上にぐちゃぐちゃに散乱した書類の中から次の曲の譜面を探しはじめた。そんな渋谷毅の姿に、退廃的な香りを感じないわけにはいかにかった。
デカダンス・・・。まったく恥ずかしい話だが、私はそういうジャズの退廃的な香りが好きだ。そういう渋谷毅をかっこいいと感じてしまう。
渋谷毅。稀有な音楽家である。
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