●今日の一枚 393●
Holly Cole Trio
Temptation
ボイラーの点検のため遠方から業者が来た。大きな異常はないということだが、一応微調整していった。年に一回の点検を1万円で契約している。軽度の故障なら無料で部品の取り替え・修理をすることになっている。高いか安いかはちょっと判断できない。深夜電力でボイラーのお湯を沸かし、温水パネルヒーターで家中を暖房し、熱交換機で新鮮な水をお湯に変えるシステム。我が家は確かに暖かく、便利である。しかし、時々思うのだ。もっとシンプルなものでよかったのではないかと・・・。退職して年金暮らしになってもこのような生活を維持できるだろうか。システムが複雑で高度になればメンテナンスや修理に費用がかかる。そのうち時代遅れになって、システム総取り替えなんてことになるかもしれない。年金暮らしの身には大きな負担に違いない。50代になって、しばしばそんかことを考えるようになった。滑稽である。
渋い。渋い名盤である。世評がどうなのか詳しくは知らないが、私は名盤だと思う。ボーカル、ピアノ、ベースからなる、ホリー・コール・トリオの1995年作品『テンプテーション』、トム・ウェイツのカヴァーアルバムだ。それにしても、渋いとはなんだろう。辞書のいうように、「派手でなく落ち着いた趣があること。じみであるが味わい深いこと」であるとすれば、まさしく渋い作品といえるだろう。けれどもそれだけではない。そもそも人は「地味」なだけで渋いとはいわないだろう。地味でありながらも、光るもの、目を見張るものがあるからこそ、「渋い」という言葉は肯定的な意味を持ちうるのだ。そうでなければ、それはただの「凡庸さ」である。
派手でなく落ち着いた趣がありながら、心がざわめく。けれども、決して嫌な感じではない。トム・ウェイツの作品をトム・ウェイツとはまったく異なるやり方で曲の芯の部分を抽出してみせる。闇の中から静かに立ち上がってくるようなサウンドがそれを際立てる。それがこの作品の渋さの本当の意味だ。アーロン・デーヴィスの硬質なピアノの音色が静謐感を漂わせ、デヴィッド・ピルチの柔らかく深いベースがサウンドに安定感を与え、全体を優しく包む。やはり、ホリー・コールはトリオ作品がいい。
今、傍らでは、⑬兵士の持ち物(Soldiers Things)が流れている。トム・ウェイツが歌うこの曲は大好きだ。しかし、これもまた素晴らしい。
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