◎今日の一枚 503◎
Booker Little
Booker Little
徳政令についてである。《ものの戻り》に着目して,徳政令の背後にある《徳政の思想》を解明したのは,笠松宏至『徳政令』(岩波新書:1983)だった。画期的な学説である。借金棒引き政策に人々が従ったのは,《本来あるべき姿に戻る》《昔に帰る》という観念が存在したからだというのだ。「徳」の字にも,《元に戻る》という意味があるらしい。ゆっくりとしか社会が変動しない中世社会では,急激な変革は嫌われ、こうした復古的な思想が「徳政」=良い政治とされたのである。《新儀》は非法であり,《先例》は善であるのだ。
本郷和人は,これを敷衍して,崇徳天皇や安徳天皇や順徳天皇など「徳」の字の付く天皇は,恨みをもって都を離れて亡くなった天皇であると述べている(『天皇はなぜ生き残ったか』『考える日本史』)。都に帰りたがっている天皇の魂を,元に戻すということらしい。魂を都に戻すから恨まないでくださいね,ということだ。承久の乱で隠岐に流されて死んだ後鳥羽上皇にも顕徳天皇という名が贈られる予定だったようだ。面白い考えだ。啓発される。もっとも,本郷和人は典拠を示しておらず,これらが本郷オリジナルの考えなのか,誰かの考えを引いたものなのかは不明である。
改革を声高に叫び,その掛け声のもと,政治を私物化し,その記録を改ざん,隠蔽する今日の情勢を見るにつけ,《徳政》の発想も必要ではないかと考えるのは,私だけだろうか。
今日の一枚は,ブッカー・リトルの1960年録音,『ブッカー・リトル』である。
Booker Little(tp)
Tommy Flanagan(p)
Wynton Kelly(p)
Scott La Faro(b)
Roy Haynes(ds)
哀愁のトランペットである。ブリリアントだが,翳りを含んだ音色である。スムーズなフレージングである。目をつぶって,じっと耳を傾けずにはいられない。クリフォード・ブラウン亡き後,トランペットのメインストリームを受け継ぐのは彼だったはずだ。この一年後に,ブッカー・リトルは病気で,スコット・ラファロは交通事故で亡くなる。信じられない。
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