海から冷たい波風がビュービューと岩場に吹き寄せる
ガタガタと震えながら玉菊は対岸の港の灯りを恨めしく睨み付けた
もう3日以上食べ物も口にしていない
それに自分以外の人間は誰もいない
ただ目の前は陸地を隔てる海がある
雨風をしのぐような場所も無い小さな島に置き去りにされて
玉菊はひたすら今しも狂いだしそうな憎しみと絶望感に苛まれていた
江戸時代、対岸の小さな港町は大阪と土佐を結ぶ樽廻船が出ていて
この港を出て浪速の町で行商する商人も多く行き来していた
そんな商人の中に魚を扱う淡路屋がいた
淡路屋は浪速の町で一旗揚げて意気揚々と故郷の港町に錦を飾ろうと
色街で身請けした玉菊と言う名の遊女を女房にして玉菊を伴って船に乗った
船が浪速の港を出て幾日か経った頃
淡路屋は故郷の港町の掟を思い出した
この町に住む者はこの町以外の他所の土地から嫁を迎えてはいけない
淡路屋は船が港に近付くにつれ不安になって一計を案じた
港の入り口に葛島と言う無人の島があって
島がこの港を天然の防波堤のように荒波を防いでいた
葛島から港の岸までは大人の男だと泳いで渡れる距離だけれど
泳ぎを知らない女の身だととても泳ぎ切ることはできない
そこで淡路屋は船をその島に着けてもらい
「すぐ迎えに来るから」と玉菊を島に置き去りにした
置き去りにされたことに気づいた玉菊だがどうしようも出来ない
食べ物も無く磯に降りて海藻や貝を拾って口にした
しだいに着物は乱れ髪は解れ体は薄汚れ
何日か経つと乞食か狂人のように見えて来て
とうとう終いには島に近付く漁船の漁師に島の岩に立つ玉菊は幽霊に見えた
葛島に幽霊が出ると言う噂が漁村に流れ
玉菊が泣けど叫べども船は近付いてこなかった
何年かたってそんな噂も消え玉菊の姿は島に見かけなくなった
そしてある嵐の晩
港の近くの浜辺に玉菊が大蛇の姿となって現れたそうな
最近、テレビがつまらんからユーチューブでまんが日本昔話ばかり見ていたから
故郷の昔ばなしを私がアレンジしました
暇やな
実家は築・・何年だろう?
戦後すぐに建てられた家で調度品もほとんどその時のまま
だだっ広くて薄暗い誰もいない家に入ると
それこそ、もう怖くて怖くて
古い仏壇に神棚、床の間の七福神の宝船、色あせたボロ雑巾の様な掛け軸
帽子?の欠けた布袋様が不気味に笑いかける
止まったままの手巻きの柱時計に姉が弾いていた電子オルガン
その時、時計ボンボンと鳴ってオルガンから音がした日にゃ~
おしっこちびる所の話しじゃ無い
(じぃちゃん、出てくんなよ)
と念じながらあちこちの灯りを点ける
外の便所なんかに入った時なんて
ふりかえると、ばぁちゃんが立っていそうで決してふりかえらない
お隣の家も無人だ
僕をかわいがってくれたおばぁさん一人暮らしだった
数年前に亡くなったが
「ひろ造ちゃん」とか言って
今しも隣りのおばぁさんが裏木戸を開けて入って来るんじゃなかろうか
とかびくびく怯えながら
スリリングな大晦日を迎える
そんな事よりコンビニも無いし商店も空いてない
いったい正月の食い物どうにかしないと
大晦日の晩に実家に帰省する
実家の集落は大阪から徳島経由の高速バスの終点
バスの乗客は途中で皆降りてしまって終点で降りるはいつも僕一人
徳島から普通の路線バスでも高知からの路線バスもここが終点
おまけに汽車の駅も終着駅、
朝、東京駅を発って深夜にたどり着くのは最果ての、どん詰りだ
うら寂しいバス停は遠浅の砂浜に面した国道沿いにあり
たまに野宿の遍路さんが寝ている
最終バスの着く時間はヒューヒューと頬に海風が吹き寄せ
真っ暗な海からザザザザと潮騒の音がする
枯れ木の目立つ防風林にネギと芋だけ植わった、いかにも土地のやせた畑
昔は冬になると遠くの沖合に燃えるような漁火が見えたが
今ではほんのポツリポツリと侘びしい灯りが見える
海は闇夜に溶け込んで引きずり込まれそうな気がする
そして、この辺りからいつも背筋がぞっとするんだ
坂を上った太平洋を見渡す観光スポットに子供を抱いた観音像があって
素晴らしい景観と美しい観音像に見とれる旅人がいる
実はこの観音様はこの海に身を投げた若い魂を弔う像なんだ
国道沿いのわきに数体のお地蔵さんがそっと佇んでいて
四国88か所を巡る途中行き倒れたお遍路さんを供養している
(怖いな~、嫌やな~、まるで八墓村やんけ)とか思いながら
真っ暗な小さな川沿いの道を実家に向かう
この川は通称‘かめとり川,と言って
小さい頃、地元の年寄り連中が散々川沿いで‘たぬき,に騙された話を子供たちに話した
夕暮れに子供たち数人で遊んでいるといつの間にか子供が一人増えていて
そしていつの間にやら消えている
この川にはもののけがいる、ひとりで遊んでいる子に憑りつくんだ
(わし何かに憑りつかれたんやろな、)
どこにでもありそうな、そう言った類の話しだった
昔でさへ怖かったのに過疎地で人のいなくなった今
(たぬき、化けて出てこんやろか)と、足取り重く家路につく
続く
もう一月以上ブログを書かなかったのか・・
知らんまに
また暑苦しい夏がやって来てしもうた
この時期になると決まって頭の中に‘コンチキチン♪、コンコンチキチン~♪
と祇園囃子が鳴る事がある・・・
あほ・・ちゃうか
今年は行ってみよかな・・
まだ暑い日盛りの時から日が暮れるまで四条通りをうろうろしよう
橙色の灯りが提灯に照らされて雑踏で身動きがとれんようになった頃
ひょっとして人混みの中に昔の十代の頃の自分に会えるかも知れない
川端康成の古都では祇園祭の宵宮の晩、苗子が自分とうり二つの千恵子に出会う
わしは18歳の時分の自分に会う
同世代の奴が浴衣姿の彼女と連れだったり
友人達と青春を謳歌してそぞろ歩いているのを尻目に
パチンコで負けてスカンピンのわしは肩を落として河原町を歩いている
雑踏に紛れて見えなくなろうとしている昔の若い自分に今のおっさんになった自分が声をかける
「おいおい!わしが誰か分かるか?」
「いえ、知りませんが」
「○○年後のお前じゃ」
「それで○○年後の僕はいったい何をしてるんですか?」
「今、店一件潰して田舎に帰るとこじゃ」
将来の事なんぞ知らん方がええな
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪降り積む
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪降り積む
稀に粉雪が舞うぐらいの四国の海辺育ちだから
テレビに映る北国の暮らしに憧れた
雪に閉ざされた銀色の世界
藁ぶき屋根に白い雪がしんしんと降り積む
暖かな囲炉裏端に集う家族
ちゃんちゃんこを着た赤いほっぺの子供達
お父は土間で藁うち仕事
お前~もぅがんばれよう~~♪
引きこもり体質だからそんな暮らしに憧れたが
実際は大変なんだろうな冬は外仕事を出来ないし
そんなところで所帯なんか持った日にゃ
「お父ぅ~お腹空いたぁ~」
「お父ぅ~チョコレートが食べたい」
子供達にそんな事言われたらしゃーないからお父は出稼ぎに出る
夜行電車に揺られて上野駅に着いたお父ぅ
ど~こか~にぃ♪故郷の便りをのせぇて~♪
しかし、根っからの怠け者で酒飲みのお父ぅ
いつの頃から仕事も出ないで朝から酒浸り
行き着く先は泪橋
今日のぅ~~仕事は辛かったぁ~♪あとは焼酎を煽るぅだけぇ~♪
(どんだけの人がこのフレーズを知っとるだろう)
わしがお父ぅだったらこんなもんか
神様、1等なんて贅沢は言いません
前後賞の1億5千万恵んで下さい
近い将来の備えにこれだけあれば充分です。
隙間風にこんこん咳をしている田舎の親父を小奇麗な老人ホームに入れられます。
実家のボロ家も処分出来ます。
そうしたら僕は女房子供ほったらかして
どこぞの知らない町で余生を過ごします。
朝な夕なに散歩三昧、温泉三昧、酒三昧
暇つぶしにアルバイトをしたりして
・・・
絶対当たらんやろな
今日はクリスマスイブだな
今晩、3人の幽霊が僕の前に現れる
一人目の幽霊は僕の過去へと僕を誘う
小学生の僕、澄んだ目にかわいい八重歯
毎日、教師にボケ、カス言われながら頭を小突かれている
中学生の僕、かわいさに拍車のかかった時代
毎日、クラブの先輩に殴る蹴るの無慈悲な暴行を受けている
高校生の頃の僕、これこそアイドル顔
毎日、母親をだまくらかしちゃーパチンコ屋に入り浸っている
二人目の幽霊が現在へと誘う
仕事中、有線放送から流れる演歌を聞きながらインターネットを見ている
お客はいない
助手もスマホを見ながらあくびをしてる
三人目の幽霊が未来へと誘う
店を潰した後、酒浸りになり
アルコール性の認知症から施設に入っている
歯抜けの顔でニタニタ笑っている
スェットパンツが小便で濡れてる
チンチンいじりながら歩いている
他の入居者から罵声を浴びせられスタッフにからかわれている
(未来は変えられるだろうか)