夏の焼きつく日差しとアスファルトからの強い照り返し
滲み出す汗をかきながら僕は競馬の騎手のように尻を持ち上げて
自転車でいっきに岬の突端のきつい上り坂を登った
岬は太平洋にせり出していて突端までが上り坂で
突端からの折り返しがなだらかな下り坂だ
アスファルトできれいに整地された国道は道幅が広く
道路の拡張で切り出された山の岩肌をコンクリートが蔽っていた。
岬の坂を昇りきると地続きの無人島が見え
島と岬との間に小さな入り江を形成していて
入り江の水深が深いが為か○○湾と呼ばれていた。
海はどこまでも青く、海鳥はきままに風に身を任せ
打ち寄せる波の向こうには網を上げる漁船ののどかな風景が拡がった
岬を廻る数キロの道のりには民家も無く、行き交う車もまばらだった
そんな大小いくつかの岬をめぐる20キロ程が僕が通う高校の通学ルートだった
その日は土曜日の午後で帰宅部の僕は太陽がまだ真上にある熱いきざしの中を家路を急いだ
ふうふうと坂の頂上にさしかかった時
目の前にまたサドルからお尻を持ち上げ坂を登り切ろうとする自転車が現れた
半そでの白いワイシャツと紺のスカート、風になびく黒髪
クラスメートのかよちゃんだった
しばらく後ろに着いて走ったが僕はすぐにかよちゃんの自転車を抜き去った
後ろでお尻をながめられていると思われるのが嫌だった。
彼女は生徒会の副会長で才女だった、
それにおしとやかな美人だったんでマドンナ的な存在だった
僕は頭が悪く、帰宅部で生徒会とも無縁だし
存在感の無いただの‘へたれもん,だった
そんな僕はいつかはかよちゃんに
自転車での帰り道に話しかけたかった
しかし僕は彼女のそばを走っている時いつもうつむきながら自転車をこいだ
かよちゃんには男を気軽に引き寄せさせない気品が溢れていた。
彼女が誰かと付き合っていると言う話も聞いた事が無いし
男子生徒と大声で話し合っている姿も見た事が無かった
しかし高校からの帰り道、
何故かいつも自転車をこぐ彼女の姿が僕の前後にあった
暑い夏が過ぎ高校生活最後の体育祭が始まったが
僕はいまだ彼女に話しかける機会を逸していた
僕は体育祭の間中一緒にカメラに納まって貰おうとしばしば彼女の姿を目で追ったが
結局、僕の勇気は萎え、ツーショット写真は幻に終わった。
年が変わり思い出の高校を巣立つ時が来た
僕の出た高校の卒業生は自然と都会へとはじき出される
彼女もまたはじき出された一人だろうが
卒業した彼女がどこへ行ったかは記憶に無いし
二回ほど出た同窓会にも彼女の姿は無かった
あの遠い夏の日、
ふうふうと自転車をこいで岬の坂道を昇った姿を彼女を思い出す事はあるだろうか
その記憶の片隅に僕の姿は・・・
たぶん無いだろう
わしも暇じゃのう