学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

サントリー美術館「扇の国、日本」展をみる

2018-12-01 22:20:42 | 展覧会感想
今日も見事に晴れて良い天気となりました。朝の冷たい空気がとても心地よい毎日です。

サントリー美術館で開催中の「扇の国、日本」展を見て来ました。扇、というアイテムから見た日本の美術を紹介したとても面白い着眼点の展覧会です。扇の役割は単に風を起こすためだけに非ず、呪術、メモ帳などに活用されたほか、美術としては、扇がパッと開くイメージから、華やかな物語性を持つ意味合いとして用いられたようです。また、屏風に描かれた扇はデフォルメされているものがちらほらあり、非常に装飾的な役割も担っていたようです。扇のなかに描かれた源氏物語、源平合戦などの一場面は、まるで幻燈でも見るかのよう。

歴史のなかで私が驚いたのは、古来より扇が日本の重要な輸出品となっていたこと。贅を凝らした扇にはブランド力が備わっていたのですね。展覧会では、豪華な、というより、たぶん一般の人々が用いる扇の製作場面を描いた屏風、それは小さな家で男女それぞれ役割分担して扇を作っている姿を捉えたほのぼのとする作品も展示されていました。日常を捉えた貴重な作品ではないでしょうか。

扇の奥深さをとても堪能できる展覧会です。私は長沢芦雪の扇2枚が可愛らしくて好きになりました。機会がありましたら、ぜひご覧になって見てはいかがでしょうか。
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ギャラリーへゆく

2018-11-30 18:44:00 | 展覧会感想
今日もたいへん良い天気。コート、マフラー、手ぶくろと寒さ対策万全で外出しましたが、日中は暖かくて必要ないくらいの陽気でした。

今日は休日を利用して、作家の個展を見にギャラリーへ出かけました。美術館には様々なギャラリーから展覧会の案内が届きます。今回も頂いたうちの1通のギャラリーにお邪魔した次第です。80年代から作家活動を始めた方の個展で、初期から近年の作品にいたるまで、およそ20点程度が展示されていました。限られた点数ではあったものの、作者の作風の変遷がよくわかる内容です。残念ながら、作家さんはいらっしゃいませんでしたが、御家族のお一人から、作品に関する様々なエピソードをお聞かせいただき、充実した時間となりました。

ギャラリーあるいは画廊というと、絵を売るところ、のイメージを持たれる方が多いと思います。実際にそれで生計を立てているわけですが、若手作家を発掘したり、育てたり、あるいは著名な作家の回顧展を開くなど、ギャラリーが果たしている役割は大きいものがあります。私も仕事柄、他の美術館はもちろんですが、こうしたギャラリーの動きにもアンテナをはって、気になったら足を運ぶことを意識しています。ときには作家さんとお会いすることができて、勉強させていただくことも多々あり、人と人との交流にもつながるのです。

今日も良い1日を過ごすことができました。また明日から仕事を頑張ります!
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茨城県陶芸美術館「欲しいがみつかるうつわ」展

2018-11-21 22:32:24 | 展覧会感想
今日も気持ちの良い晴天でした。往来を車で通りがかったとき、銀杏の並木が見事な黄に染まり、秋空に映えて、とても素敵でした。

秋といえば、芸術の秋ですね。このあいだ、茨城県笠間市にある茨城県陶芸美術館で「欲しいがみつかるうつわ」展を観て来ました。陶芸のまち笠間と、おとなり栃木県益子町の若手作家55名を紹介する展覧会です。趣旨に「作家自身が思い描いたことが産地の伝統的なスタイルや材料などにとらわれることなくストレートに表現されており、多くのものが高いデザイン性を備えています」とある通り、いずれも前衛的で、陶芸の新たな可能性を追求した作品が一堂に展示されています。とはいえ、まったく奇をてらった作品が並んでいるわけではなく、「用の美」ともいえる実用性の部分へのバランスも保ち得ているのです。

展示会場は、なんと写真撮影が認められていて、私も気になる作家さんの名前や、その作品をいくつか写真に取らせていただきました。ちなみに、私が好きなった作品の作家さんは久保田健司さん、えきのり子さん、本橋里美さんです。ずっと眺めていて、とても良い心持ちにさせていただきました。

また、以前のブログにも書きましたが、茨城県陶芸美術館ではミュージアムショップで作家さんの作品をリーズナブルなお値段で販売しています。今回の展覧会でも55人全員ではないようでしたが、一部の作家さんの作品を購入して応援することができます。すごくいい試みをしているなあと感じ、とても勉強になります。

この展覧会は12月9日まで開催しています。笠間周辺にいらっしゃることがあれば、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう!
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レイモン・サヴィニャック

2018-06-05 20:54:47 | 展覧会感想
20世紀を代表するデザイナーにレイモン・サヴィニャックがいます。フランスに生まれ、主にポスターの世界で一世を風靡した作家です。

現在、栃木県の宇都宮美術館で、彼の展覧会が開催されているので見てきました。今から9年ほど前、たまたま岩手県立美術館へ行ったときにサヴィニャック展が開催されていて、それを見てから大のお気に入りの作家になりました。サヴィニャックのまとまった展覧会を見るのはそれ以来なので、とても楽しみ!

サヴィニャックのポスターの特徴は、まず手書きが基本であること。そして、企業名やその企業がどんな製品を提供しているのかが明快であること。そして造形も色もシンプルであること。主にフランスの企業のポスターを手がけていますが、展覧会では、日本のサントリーや森永、豊島園のポスターも展示されていました。日本ともゆかりがあったんですね。

また、展覧会で嬉しいのは、ポスターの原画も展示されていること。サヴィニャックの原画が印刷されるとどう変わるのか、比較して楽しむこともできます。サヴィニャックは当然、自分の絵が印刷されることを前提で作っていますから、印刷の刷り上がりをイメージして作品を作ったことは間違いないのでしょう。比較すると…不思議なことに原画よりも印刷されたポスターのほうが、色、輪郭線などのバランスが取れて、さらに原画の粗さが消えてくっきりしていい。サヴィニャックの計算がズバリ当たっているということなのですね。

展覧会は6月17日までだそう。ぜひ、オススメの展覧会です。
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国立新美術館「至上の印象派展」を観る

2018-03-19 21:21:28 | 展覧会感想
ある時期まで、私は印象派のルノワールやモネなどの作品が大好きでした。明るくて、美しくて、遠い異国ヨーロッパの息吹を感じさせるものとして、それらの作品の世界に憧れを抱いていたのです。地方に居た私は、なかなか本物を見る機会がなかったのですが、岩手県立美術館のこけら落とし「モネ展」の開催を聞いて、雪の残る岩手県盛岡市まで足を運んだものでした。でも、それからなぜかだんだんと印象派とは縁遠くなり、今ではほとんど印象派に関する展覧会に出かけることは無くなってしまいました。

現在、国立新美術館で開催されている「至上の印象派展」はドイツ出身の武器商人ビュールレが収集したコレクションを展示しています。「武器商人」でだいたい予想はつくと思うのですが、年譜を見ると、彼の生涯は第一次世界大戦と第二次世界大戦を通っており、やはりそれで財を成したよう。展示されているコレクションはなかなかのもの。印象派を柱として、その前後の時代の作品も収集することで、印象派の仕事を明確化し、さらに19世紀後半から20世紀前半のヨーロッパ美術の流れがわかるような集め方をしていたようです。私は印象派…よりも後期印象派のゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンらを食い入るように見ていました(笑)特にセザンヌの肖像画は、のちのキュビスムともつながるような気配を感じさせるもので、その後のピカソやブラックへと続く流れが良く分かるものでした。

こうして展覧会を見終えて思うことは、私の中で印象派はもうお腹いっぱいになっているなと(笑)後期印象派のほうへ興味が移ってしまいました。人の好みは年を経れば変わるものですねえ。それはそれとして、重複しますが、展覧会は19世紀後半から20世紀前半のヨーロッパ美術の流れがわかる、さらにいえば、わかりやすい内容です。とても満足のいく展覧会でした。
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川越市立美術館「小村雪岱展」

2018-03-10 20:30:46 | 展覧会感想
川越市立美術館で開催されている「小村雪岱展」を観て来ました。小村雪岱(こむらせったい)(1887~1940)は、大正から昭和にかけての作家で、主に新聞、小説の挿絵や本の装釘などの分野で活躍しました。展覧会では、豊富な作品と資料で、その全容を紹介しています。

小村雪岱の仕事は、新聞や小説などの挿絵という性格上、原画を版(印刷)に通したものがほとんどです。ここで問題というか、意識しなければならないことが、原画を版に通すと、原画の魅力が損なわれる可能性があるということ。雪岱がどれだけ意識していたのかはわかりませんが、展示されている原画と雑誌の表紙(4色刷)を比較した場合、やっぱり原画のほうが断然いい。けれど、これが白黒の新聞や小説の挿絵となると、色の問題がなくなり、原画の魅力が活きてくる。江戸時代の浮世絵師、鈴木春信の描く人物描写を、ビアズリーばりの細い線を使って、特徴ある雪岱ならではの人物像に作り上げていきます。展覧会では、その背景や過程をとてもわかりやすく読み取ることができます。さらに深く知りたい方は、雪岱の周辺に関わる石井鶴三や木村荘八のことも調べると面白いのではないでしょうか。

こうして雪岱の作品を見ていくと、彼の作品のいくつかに出てくる、月の出る美しい夜空。そこからなぜか新宿のビルが見えるような気がする。それだけ、彼の作品が今も生き続けているような気がしました。

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川瀬巴水

2018-02-19 20:05:03 | 展覧会感想
先日、栃木県那珂川町の馬頭広重美術館で川瀬巴水の木版画を見たのだけれど、これがなかなか良かった。

川瀬は明治生まれで、大正から昭和にかけての作家。木版画の絵師として活躍しました。彼はいわゆる「新版画」のひとりで、これは江戸時代の浮世絵以来の絵師、彫師、摺師の分業制で作品を仕上げるもの。いわば、近代の浮世絵バージョンなんですね。川瀬の風景に対する視点が、確かなデッサン力によって裏付けられ、それが彫師と摺師の高度なテクニックによって、ひとつの作品と完成していました。それらを見ていくと、川瀬は「版」で何か新しい表現を目指した、というよりも、目に独特のカメラを持っていて、それをもとに日常の何気ない風景の一場面をパシャリと取ることを得意としていたよう。私の好みで言えば、特に夕暮れや夜の場面がとてもいい。例えば《大森海岸》で舟を見送る女性の後ろ姿、《瀧之川》の上にかかる橋を子どもと母親が連れ立って歩く姿…それらの周りの民家や店からこぼれるぼんやりとした光。美しい風景のなかに、人間の生活感がただよう。たった100年前まで、日本にはこれほどの情緒が残っていたのかと驚かされる、とともに、なんでこういうものが今に残らなかったんだろうと。

展示の仕方は玄人好み。川瀬作品の一部はマットに入れられた額装状態ではなく、ガラスケースのなかで作品そのままを展示しています。ですので、和紙の風合いや作品の余白、そうしたものも楽しむことができる趣向です。さらに校合摺も展示してあって、作品が出来上がるまでのイメージもわかりやすく紹介してあります。とても満足度の高い展覧会でした。
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水戸芸術館「ハロー・ワールド」展

2018-02-14 23:00:12 | 展覧会感想
現代美術は難しい。どうも、一般的にそう思われていることが多いよう。作品が何を意味しているのか、素材は何でできているのか、何のために制作したのか、など、疑問を持たれがちです。私自身、今でこそ全く抵抗はありませんが、本格的に美術を勉強する前までは、正直なところ、ちんぷんかんぷんなところもありました。

先日、茨城県の水戸市にある水戸芸術館へ出掛け、「ハロー・ワールド」展を見てきました。芸術はいわば「危険早期発見装置」である、をキーワードに、作品を通して、我々の文明に対する批評や弱点、危険性の提示するという内容です。この展覧会、現代美術に抵抗のない私でも、なかなか難しかった(笑)哲学書を読み込むときのように、作品を理解するために一つ一つ集中して作品と接する。今日の最低限の社会問題を知っていれば、より作品から引き出されてくるものを感じることができます。

私にとっては、レイチェル・マクリーンの映像作品《大切なのは中身》が最も良かった。まず、主題がかなりわかりやすいし、脱スマホを心掛けている今の私の生活ともリンクするところがあって、自分と作品との距離感が近いと感じたためです。

同展は、アートの役割を考えるため、難解ではあるものの、一石を投じる内容であると思いましたし、さらに我々の文明に対して問題を提示するものとして、非常に重要な展覧会ではないかと思います。

※受付で配布される展示室の図面と作家紹介の文章が、難解であろう作品を理解するための手助けをしてくれます。
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すみだ北斎美術館

2018-02-11 22:19:34 | 展覧会感想
先日、東京都墨田区にある、すみだ北斎美術館へ行ってきました。両国駅から徒歩数分、公園のなかに建つガラス張りの現代的な建物が見えてきます。外観だけですと、まるで現代美術を扱う美術館のようです。

私が行ったときには、常設展のみ開催で、展示室は北斎の生涯を時系列にたどる方法で作品が展示されていました。新しい美術館らしく、デジタル技術が活用されており、作品の解説はもちろんのこと、北斎の代表的なシリーズである「富嶽三十六景」の一点ずつの図版と解説を読むことができるほか、さらに『北斎漫画』などの資料を見ることができます。

全体を通して感じたことは、北斎やその周辺に関する情報の提供に積極的であることです。先例のほかにも、美術図書館も併設、なかのパソコン端末を使えば館の図書資料を検索することができ、又レファレンス担当のスタッフの方も常駐されているよう。

私の勤務する美術館も、こうした情報公開の必要性を感じているものの、時間不足や人員不足などから、なかなか実現に移せず、停滞している状況です。今さらながら、我が館の課題を感じた…のでした。
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体験できるアート

2018-01-29 21:00:01 | 展覧会感想
私たちとアートを結ぶものは視覚だけとは限らない。近頃は、といっても、もうずいぶん前からだけれど、ただ見るだけではなくて、さわったり、音を聞いたり、匂いをかいだり、人間の五感に訴えるような作品が多くなってきました。(さすがに味覚に訴えるアートは今まで体験したことがない)

今日は休暇を利用して、東京都の森美術館で開催中の「レアンドロ・エルリッヒ展」を楽しんできました。彼の作品としては金沢21世紀美術館の《スイミング・プール》が有名です。私も一人旅で金沢へ行ったときに、同作品を興味津々に見てきました。が、あれは1人より2人で見るほうが断然楽しい作品ではありましたが…(笑)

さて、森美術館の「レアンドロ・エルリッヒ展」は、まさに体験できる作品が目白押し。鏡によるトリックで、来館者の心をぐいぐい引き込んでいきます。でも、ただ面白いだけではなし。こうした作品の背景には、人間や現代社会に対する「Why」があって、それを私たちの目の前に広げて見せるのです。体験は体験として楽しめつつも、アートを通して、私たちが意識していなかった部分へと光を当てていきます。監視カメラを主題とした作品では、ジョージ・オーウェルの『1984』が現実のものとなりつつあることに、私は少し怖くなりました。

私はときどき現代アートを欲します。それは、ごちゃごちゃになった頭の中をほぐしてくれるから。とともに、新しいことに気づかされるから。前日の宇都宮美術館に引き続き、いい刺激になります。
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