学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

中村真一郎『雲のゆき来』

2009-11-21 22:11:31 | 読書感想
私は芥川龍之介の小説が好きで、特に昨年は暇さえできれば本を開いて読んでいました。私が持っていたのは岩波文庫版で、解説はいつも中村真一郎さんが担当。簡潔で明快な芥川小説へのコメントが書かれています。ただ、私にとっては記憶の片隅に残る程度で、中村さんがどんなことをされた方なのかは存じ上げませんでした。それから一年。ひょんなことから、中村さんの小説を読むことになった次第です。

中村真一郎さんは戦後に小説、評論、翻訳などで活躍された方。今回読んだ『雲のゆき来』は…あらすじがちょっと書きにくい(苦笑)「私」が江戸時代の僧侶、文筆家であった元政上人の詩的考察を行いながら、父への憎しみを抱える若い国際女優と旅をすることで、文明に対する批評をするというもの。これではわけがわかりませんね(笑)うまく書けなくて申し訳ありません。…序盤、漢詩に深く精通している人ならば、中村さんの文章は頭に入るのでしょうが、私にはちょっと難しすぎました。しかし、文章内での小説の問題、批評家たちに対する堂々とした主張には興味深いものがあります。アイロニーが効いていて、クスッと笑いそうにも。

私小説ではなく、小説の体裁を取りながら、様々な評論を行ってゆく手法。ちょっと私が今まで読んできた小説とは一味違うもので、ああ、小説にはこうした書き方もあるのだなあと。中村さんの『空中庭園』は人気があるそうです。機会があれば読んでみたいと思います。

●中村真一郎『雲のゆき来』 講談社文芸文庫 2005年