学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

南画の潮流展

2021-03-04 18:50:39 | 展覧会感想
先日、宇都宮美術館で「ジョルジュ・ビゴー展」を見たあと、栃木県立美術館へも立ち寄りました。県立美術館で開催していたのは「栃木における南画の潮流展」です。南画の中でも「栃木」と限定したところが、県立らしい企画ですよね。

展示されている作品は、おおよそ江戸後期から昭和の中頃までの南画です。南画全盛期だった江戸後期は、やはりとてもいいものがあります。谷文晁の《富嶽図》、小泉斐の《輞川図》(一見、どこかの城跡でも描いたのかと思いました)の迫力がお見事。また、渡辺崋山、高久靄厓、吉澤松堂の竹図を比べて楽しむことができるのも面白い。きれいにまとめた吉澤、墨の濃淡を効かせた高久、その高久の上を行き、さらに筆先のかすれやねじりを加えた自由奔放な筆力の崋山。3人の特徴が際立って見ることができます。近代に入ると…南画というジャンルにとっては難しい時代になったのかな、という印象です。前衛的な表現をうまく取り入れた、当時の日本画や油画を思い浮かべると、南画は主題が主題だけに新しい表現方法の開拓が厳しかったのかもしれません。そのなかでも、小杉未醒の《石切山》や《雨》はかなり健闘しているな、と感じました。

その後は常設展へ。清水登之の《父の庭》がとても面白い絵でした。植木職人が庭先の巨木の枝を全部切り落とし、はしごの上でどうだと言わんばかりのジェスチャー、それを家の主人である父が背を向けて眺めている。「いくらなんでもやりすぎだろ」と父が背中で語っている感じがして、思わず、にやりとしてしまいました。

企画展も常設展もゆっくりと楽しむことができました。やはり、絵を見ることは楽しいですね。