学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

夏目漱石『草枕』

2011-07-20 21:37:36 | 読書感想
明治の文豪、夏目漱石の『草枕』を読みました。

『草枕』は主人公の画家が、旅の途上でミステリアスな女性と出会い、心がさまざまに揺れ動くという物語。前作の『我輩は猫である』や『坊っちゃん』の軽快さと比べると、ややとっつきにくいところがありますが、あまり気にせずに読み進めていくと、それほど違和感はなくなってきます。

『草枕』の解説には、近代文明への批判、理想主義への苦悩などが表わされているとありますが、そうした解釈は多くの文学者が試みていることなので、ブログでは私なりの感想を書きます。

「私なり」というのは、美術館学芸員としての視点からです。(それほど大げさなものでもないのですけれど)

この小説は主人公が画家であるせいか、日本の絵師や西欧の画家の名前がいくつも絡んできます。運慶、雪舟、岩佐又兵衛、伊藤若冲、長沢芦雪、葛飾北斎。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ターナー、ラファエル前派のミレー。漱石は日本の絵師だけではなくて、西欧の画家も相当知っていたことになります。『草枕』が書かれたのは1906年(明治39)ですから、当時の日本人でこれだけの名前を知っていた人は一握りだったのではなかったのでしょうか。私の持っている漱石の年譜には、大英博物館やルーブル美術館に行ったという記載はないのですが、これはロンドン留学の際にパリに立ち寄っていることやロンドンでの(本人は相当苦痛だったようですが…)海外時代に得た知識なのでしょう。主人公が画家なので、これぐらいの知識はあってしかるべき、と漱石は思ったのかもしれません。


もうひとつ。ミステリアスな女性、那美の存在です。那美の設定は、離婚して実家に戻ってきた女性というもの。周りの人たちからの評判はあまり良くない。唯一、地元のお寺の和尚様には素直な心を見せていたよう。那美は、主人公に対しても翻弄するような態度や言動を発します。主人公はそれに対抗しようとしますが、結局は彼女に翻弄される(笑)漱石の小説でミステリアスな女性といえば、『三四郎』の美禰子を思い出します。彼女は男の耳元で「ストレイシープ」と意味深なことを言ったりするわけです。こうした女性像はイギリス小説から影響を受けているのかわかりませんが、私は漱石の小説に登場するミステリアスな女性像は好きです。登場人物の魅力が増して、小説に厚みが出てくるような気もしますし。


『草枕』、読みづらいところもところどころありますが、主人公が床屋で無理やりマッサージをされるところなど、笑える部分も多々あり(笑)漱石のなかでもオススメの1冊です。


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2 コメント

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漱石と美術 (定年退屈男)
2012-04-26 13:58:30
既にご存知ならば無視していただきたいのですが、漱石の小説にはよく絵画など美術に関する記述が出てきて私も興味を持っておりました。

いろいろ調べてみると漱石と美術の関係については既に詳細な考察がなされていることを知りました。
もしまだお読みでなければ是非以下の書を一読されることをお勧めいたします。


絵画の領分 芳賀徹著 朝日選書

「漱石の美術愛」推理ノート 新関公子著 平凡社 
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Unknown (hoyht)
2014-06-10 22:27:45
定年退屈男さん

2年ごしのコメントで申し訳ありません。
コメントをいただき、ありがとうございます。

私は夏目漱石がとても好きなので、美術に関係する
資料に興味があります。
ご推薦下さった本、ぜひ探してみます。

ありがとうございます。
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