●パパママ・ストア
A商店が乾物Xを50箱、入手しようとしている。A商店は最初から50箱買うと決めているので、競りには参加しない。直接、売り出し業者と価格交渉し、事前に入手してしまう(「相対取引」)。
ところが、たまたま豊作で、交渉した売り出し業者から60ロット仕入れることになった。
A商店が必要なのは50ロットなので、10ロット余る。
20店舗をもつBチェーンに売り渡そうとしたが、Bチェーンにとっては10ロットだと不足だ。チェーンストアは、基本的に、すべての店舗に同じ商品を置かねばならない。この店舗にあって、あの店舗にない、となると、チラシも別々につくらねばならないから、効率が悪い。よって、Bチェーンは10ロットだけを買い取ることはしない。
こうした場合、端数の、余った商品はどうなるか。
1店舗だけやっている「パパママ・ストア」が超安い値段で引き取るのだ。
「パパママ・ストア」は、町中でやっている単独激安ストア。その経営者は、個人的に商品を仕入れているから、自然と人間ネットワークが構築される。そのネットワークから、「ちょっと商品が余っちゃって困っている。引き取ってくれないか」と連絡が来て、「いくらになるの?」となるのだ。
大手のチェーンストアは、安定した大量仕入れを行い、店舗を拡大して、絶えずシステム化を続ける。すると必ずこぼれてくる商品が出てくる。それを拾って「パパママ・ストア」が商売している。
町中の商店街で、大手チェーンストアへ行く途中の数百メートル手前にある小さな青果店などが「パパママ・ストア」だ。
「パパママ・ストア」は、家族経営だから、労働基準法は適用されない。大手チェーンストアが9時開業なら、8時半から開業することもできる。
●8対の法則
売れている商品上位20%が利益の80%を稼ぐ。
合理的に考えれば、売れている商品20%だけを並べればよさそうに思われる。
しかし、売れない商品を排除し続けると、売れる商品も売れなくなってしまう。
ファッション業界では、黒、紺、白の商品が売れ行きの80%を占めている。赤、黄色、緑、ピンクなどは「売れない商品」だ。これら「売れない商品」は、「差し色」と呼ばれ、黒、紺、白の商品を映えさせる色だ。これら「売れない商品」を置かないと、黒、紺、白も目立たなくなって、売れなくなってしまう。
黒、紺、白だけを置いた売場を想像したまい。全体が暗い感じになる。すると、購買意欲が湧かなくなる。消費者が求める「選択の楽しみ」がなくなる。
人についても、同じことがいえる。
リストラをしすぎて、「黒、紺、白」だけの人間になってしまうと、組織が硬直化する。
活性を失い、硬直した組織は、なにより変化に弱い。非合理の部分、ハンドルの遊びの部分がないと、かえって変革期に対応できなくなってしまう。
●よい安売り店と悪い安売り店の見分け方
マーケッティングにおいて、店舗チェックする際、「壊れ窓」理論を応用する。
なかでもチェックポイントは、「ゴミ箱」だ。ゴミ箱がちゃんと設置されていて、ゴミ箱からゴミが溢れていない(店舗がたえずゴミ処理している)店は、「よい店」だ。
ゴミが溢れているのは、従業員の目が行き届いていない証だ。
「入り口や売場がきれいにされている」のも、従業員の目が行き届いている証だ。店のチェック体制が整っているのだ。
もう一つ。店内に入り、商品を見渡してみたとき、「欠品」が多い店は、発注精度が低い証拠となる。これはシステム的な安売りではない。
最後に、「売場面積」に対して従業員数が少ない」こと。こうした店にも要注意だ。合理化ならばよいが、あまりにも極端に少ないのは、必要な経費までカットしている証拠で、気をつけたほうがよい。
□金子哲雄『「激安」のからくり』(中公新書ラクレ、2010.5)
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