語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】アルジェリア人質事件の補償金の格差 ~軽い「派遣の命」~

2013年02月13日 | 社会
 (1)「日揮」(従業員約2,200人)規模の企業は、社内規定によって補償金や弔慰金を遺族に払う場合が多い。
  (a)業務に絡んで死亡した社員の遺族に企業が支払う①補償金は平均3,100万円、②弔慰金は350万円(支給に供えた保険に加入している場合)だ。【労務行政研究所が上場企業を対象に行った調査、2011年】
  (b)加えて、大手社員であれば国から労災保険金が出る可能性が高い。労災保険は、企業が「海外派遣者特別加入制度(任意)」の手続きをし、保険料を納入していれば、海外における労災もカバーされる。海外赴任者を何人も抱えている大企業は「特別加入」しているところが多い。他方、中小零細企業は、制度を知らない等の理由から、未加入のところが多い。

 (2)「派遣」の仕事内容は、大手社員と、必ずしも大きな違いがあるわけではない。今回のような海外でのプラント建設の現場では、正社員を指導する立場の人もいる。
 技術者として派遣される人には、海外で大型工事をいくつも経験してきた人もいる。彼らは、外国人たちと一緒にプロジェクトをスムースに進めるマネージャーの力量があり、最近の工事では、正社員たちが彼らのようなプロフェッショナルから教わることが少なくない。例えば、犠牲者のひとり渕田六郎は、クウェート、サウジアラビアなど中近東でのプロジェクトに携わったベテラン技術者だった。【草柳俊二・高知工科大学教授】
 海外プロジェクトを受注した企業は、かつては自社社員で工事を進めることが多かった。しかし、1980年代のバブル期以降は、仕事量が増えたこともあって、外部の技術者・技能者をどんどん使うようになった。それがコスト削減と競争力強化にもなり、企業は外注の傾向を強めた。その結果、企業に海外でも能力を発揮できる基礎技術をもつ人材が減り、数百人規模で存在する独立系ベテランが重宝がられるようになった。ただ。高齢化が進み、今回犠牲になった派遣スタッフ5人も、3人が60歳前後(最高齢は72歳)だった。【草柳教授】

 (3)海外における大型工事を支えているのは、前記ベテラン技術者のほか、仕事に魅力ややりがいを感じている個人だ。派遣スタッフの犠牲者の中でもっとも若かった内藤文司郎(享年44)もそうだ。
 60~80万円の月収があったが、独身でミニカー以外に特段の趣味はなく、金が目的で海外に行ったわけではなかった。そして、現場の危険性について、あまり気にした様子はなかった。【弟・内藤二郎】
 アルジェリアは、過去に今回のような事件は起きていなかったので、特に危ないという認識はなかった。報酬も、他の国に比べ、特別高くはなかった。【稲塚博・「エーアイエル」社長】
 警備などの安全対策、宿舎や食事は、正社員も派遣も、原則として違いはない。【草柳教授、稲塚社長】
 ただし、勤務地の治安情報は、派遣先の企業から提供される。【関係者】
 派遣が得られる情報の中身や量は限られる場合があるかもしれない。

 (4)内藤文司郎の遺族に対する補償は、現時点でほぼ確実なのは、「エーアイエル」がかけていた海外旅行保険だけだ。

□田村栄治(編集部)「「派遣」の命は軽いのか」(「AERA」2013年2月18日号)

 【参考】
【原発】アルジェリア人質事件の背景 ~日本の原子力研究を支える「日揮」~
【社会】世界水準の危機管理でも防げない武装勢力の襲撃
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