語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【医療】尊厳死法は必要か(1) ~終末期医療~

2013年02月20日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)「尊厳死」という造語は、まだその概念が定着していない。安楽死と重なるが、それと同一ではない。
 安楽死は次の3つに分類され【(4)-(a)に係る横浜地方裁判所の判例】、(c)が尊厳死とされる。
  (a)苦痛から免れさせるため意図的かつ積極的に死を招く措置を執る積極的安楽死。
  (b)苦痛を除去・緩和するための措置をとるが、同時に死を早める可能性が存ずる間接的安楽死。
  (c)苦痛を長引かせないという目的のため、行われていた延命治療を中止して死期を早める消極的安楽死。

 (2)2012年、「終末期の医療においける患者の意思の尊重に関する法律案(尊厳死法案)」が、尊厳死法制化を考える議員連盟(尊厳死議連、増子輝彦(参議院議員)・会長、あべ俊子(衆議院議員)・事務局長)によって国会に上程されようとした。ただし、政局の混乱で棚上げにされたままだ。
 同法案は、15歳以上の終末期の患者が延命措置を望まないと書面で表明しており、2人以上の医師が終末期と判定すると、延命の不開始や中止を認める内容だ。
 日本尊厳死協会(岩尾總一郎・理事長)は、尊厳死法案を積極的に支持している。

 (3)医師の間では、尊厳死法制化について意見が分かれている。
  (a)望まれない延命治療が行われているのは事実。延命治療は患者を苦しめているだけではないか(疑問)。海外では一般的なリビング・ウィルの権利が、日本では法的に保障されていない。尊厳死法案はまだ完璧なものではないにせよ、国民的議論のきっかけになればよい。【長尾和宏・医師(長尾クリニック)】
  (b)尊厳死法案は死だけを見つめる不十分な法案。終末期医療に必要なのは緩和ケアの充実だ。日本では主に末期癌やエイズ患者にしか緩和ケア医療への診療報酬が認められていない。他の疾病にも拡大することが必要だ。患者と家族の希望に沿った医療を最優先に考え、望まない医療は一切やめて終末期には緩和ケアに専念している。食べられなくなっても点滴せず、胃ろうを造設しない場合もある。現状でも自然死(尊厳死)は可能だ。江東病院では、しっかりインフォームド・コンセントを得、病棟スタッフや緩和ケアチームが個々のケースでの考えを共有する。【仁科晴弘・医師(江東病院緩和ケアセンター)】

 (4)尊厳死がらみで医師が殺人容疑で書類送検された主な事件は、
  (a)東海大学医学部付属病院事件(1991年4月)・・・・(1)-(a) ⇒懲役2年、執行猶予2年 
  (b)関西電力病院事件(1995年2月)・・・・(1)-(a) ⇒不起訴処分
  (c)国保京北病院事件(1996年4月)・・・・(1)-(a) ⇒不起訴処分
  (d)川崎協同病院事件(1998年11月)・・・・(1)-(a) ⇒懲役1年6月、執行猶予3年
  (e)羽幌病院事件(2004年2月)・・・・(1)-(c) ⇒不起訴処分
  (f)射水市民病院事件(2000~05年)・・・・(1)-(c) ⇒不起訴処分
  (g)和歌山県立医科大学附属紀北分院事件(2006年2月)・・・・(1)-(c) ⇒不起訴処分
 以上において、塩化カリウムなど致死薬物を使用した積極的安楽死は有罪だが、人工呼吸器を外すなどの消極的安楽死はすべて不起訴処分となっている。ここでの争点は、延命措置の中止ではなかった。中止をするための要件が満たされているかどうか、だった。
 ちなみに、(a)の裁判において、安楽死の4要件が示されている。
   ①耐えがたい肉体的苦痛。
   ②死期の切迫。
   ③肉体的苦痛の除去、緩和のための他の代替的手段の不存在。
   ④患者の明示による意思表示。

 (5)2012年10月に封切られた映画『終の信託』(朔立木の同題の原作による)のモデルは、(4)-(d)だ。公開33日間で28万人が観た。
 事件は、担当医(55歳)が入院中の患者から気管内チューブを抜き、さらに筋弛緩剤を投与して殺人罪に問われた。最高裁は、法律上許される治療中止には当たらない、とした。
 尊厳死法案には、善意の医師が刑事訴追されないための免責条項が設けられたが、法制化によって、これまで現場で築いてきた医師と患者・家族との信頼関係が破綻する、との声もあがっている。 

□吉田敬三(フォトジャーナリスト/社会福祉士)「尊厳死法は必要か ~終末期医療を考える~」(「週刊金曜日」2013年2月15日号)
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