(1)アルジェリア人質事件について、報道が始まって以降、日本人の多くは遠い異国の同胞を思いやり、懸念し、挙げ句の結果を嗟嘆したはずだ。
直後の雑誌には、異国で艱難辛苦のうえ、国際的に活躍する「日揮」に対してエールを送った記事も出た【注1】。
しかし、「週刊金曜日」今週号は、事件の背景を明らかにし、死者を鞭打つ。
(2)事件直前の1月14日、フランスがマリに軍事介入し、イスラム武装勢力が占拠していたディアバリを制圧した。その背後に、世界最大の原子力産業複合企業「アレバ」(仏)の存在があった。
ウランを埋蔵するニジェールやマリの利権をフランスは手放したくない。そこで、ニジェールのウラン工場を守るため、特殊部隊が配備された。「アレバ」が所有するウラン鉱山付近では、2010年9月、アルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」がフランス人5人を含む7人を人質にとり、フランス人4人は今も拘束されている(3人は釈放)。
(3)「日揮」の事業は、エンジニアリングだけではない。軍事コンサルタント会社とも提携のだしている。紛争地や戦場では、民間の軍事請負会社【注2】が絡むのだ。
旧「ブラウン&ルート・サービシズ(BRS)」(チェイニー・元副大統領が会長だった「ハリバートン」社の子会社)はその典型だ。「CACI」社と「タイタン」社が拷問に加わったとされるアブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件も軍事請負企業の犯罪だ。
2002年、「日揮」は、アルジェリアのエネルギー会社「ソナトラック」と英「BP」が開発した天然ガス田開発プロジェクトを、米「ケロッグ・ブラウン&ルート(KBR)」社とで受注した。「BRS」社は1998年、石油パイプ製造の「ケロッグ」を吸収し、「KBR」社になった。
こうした民間軍事請負企業と取引する「日揮」だけに、今回の事件の闇は深い。そして、政府は人質事件の真相を明らかにしたがらない。
(4)アルジェリア人質事件で犠牲になった日本人9人の遺体は、政府専用機で運ばれた(異例)。遺体が羽田に到着した1月25日、首相官邸など霞ヶ関には半旗が掲げられた。
フランスの軍事介入がアルジェリア人質事件に発展したとき、「日揮」は被害者の氏名を公表しなかった。1月25日、菅義偉・官房長官は犠牲者の氏名を「政府の責任で」公表した(これも異例)。
新谷正法・「日揮」最高顧問の死亡発表は最後になった(奇怪な話)。ちなみに、新谷最高顧問が会う予定だった英「BP」副社長も死亡した。
(5)3・11では東海第二原発(茨城県東海村)も危機一髪だった【注3】。
茨城県大洗町の海岸から南西へ車で15分の位置に「日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター」がある。同センターは、ここでMOX燃料を使用した高速増殖炉「常陽」などの試験を通じて高速増殖炉(FBR)サイクルの実用化をめざしてきた。
一隅の4階建て作業ビルが、「日揮技術研究所」だ。脇に研究棟が南北に3つ並ぶ。フェンスには「周辺監視地域、みだりに立ち入ることを禁ず」のプレート。周囲に人家はなく、門前には畑があるのみ。南隣は、東芝と日立の共同出資する日本原燃の施設だ。これらの関連会社が日本の原子力研究を支えているのだ。
実は、東海村にある日本初の再処理工場は、「日揮」が建設した。「日揮」は、これまでウラン精錬、核燃料サイクル技術と放射性廃棄物の処理などを研究してきた。
東海村周辺には、三菱グループなど、核燃料関連会社が数多くある。前記「日揮技術研究所」もその一つだ。そのウランを日本はマリやニジェールから輸入している。また、「日揮」は、福島第一原発に事務所を構えていた。
アルジェリア人質事件で政府が「日揮」を特別扱いする理由はここにある。
【注1】
「【社会】世界水準の危機管理でも防げない武装勢力の襲撃」
【注2】
「書評:『戦場の掟』 ~ビッグ・ボーイ・ルール、民間軍事会社のイラク~」
【注3】
「【震災】原発>高レベル放射性廃液400立方メートル in 東海村」
「【震災】原発>廃炉を提案した東海村長 ~危なかった東海第二原発~」
□新藤健一(フォト・ジャーナリスト)「日本の原子力研究支える日揮」(「週刊金曜日」2013年2月1日号)
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直後の雑誌には、異国で艱難辛苦のうえ、国際的に活躍する「日揮」に対してエールを送った記事も出た【注1】。
しかし、「週刊金曜日」今週号は、事件の背景を明らかにし、死者を鞭打つ。
(2)事件直前の1月14日、フランスがマリに軍事介入し、イスラム武装勢力が占拠していたディアバリを制圧した。その背後に、世界最大の原子力産業複合企業「アレバ」(仏)の存在があった。
ウランを埋蔵するニジェールやマリの利権をフランスは手放したくない。そこで、ニジェールのウラン工場を守るため、特殊部隊が配備された。「アレバ」が所有するウラン鉱山付近では、2010年9月、アルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」がフランス人5人を含む7人を人質にとり、フランス人4人は今も拘束されている(3人は釈放)。
(3)「日揮」の事業は、エンジニアリングだけではない。軍事コンサルタント会社とも提携のだしている。紛争地や戦場では、民間の軍事請負会社【注2】が絡むのだ。
旧「ブラウン&ルート・サービシズ(BRS)」(チェイニー・元副大統領が会長だった「ハリバートン」社の子会社)はその典型だ。「CACI」社と「タイタン」社が拷問に加わったとされるアブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件も軍事請負企業の犯罪だ。
2002年、「日揮」は、アルジェリアのエネルギー会社「ソナトラック」と英「BP」が開発した天然ガス田開発プロジェクトを、米「ケロッグ・ブラウン&ルート(KBR)」社とで受注した。「BRS」社は1998年、石油パイプ製造の「ケロッグ」を吸収し、「KBR」社になった。
こうした民間軍事請負企業と取引する「日揮」だけに、今回の事件の闇は深い。そして、政府は人質事件の真相を明らかにしたがらない。
(4)アルジェリア人質事件で犠牲になった日本人9人の遺体は、政府専用機で運ばれた(異例)。遺体が羽田に到着した1月25日、首相官邸など霞ヶ関には半旗が掲げられた。
フランスの軍事介入がアルジェリア人質事件に発展したとき、「日揮」は被害者の氏名を公表しなかった。1月25日、菅義偉・官房長官は犠牲者の氏名を「政府の責任で」公表した(これも異例)。
新谷正法・「日揮」最高顧問の死亡発表は最後になった(奇怪な話)。ちなみに、新谷最高顧問が会う予定だった英「BP」副社長も死亡した。
(5)3・11では東海第二原発(茨城県東海村)も危機一髪だった【注3】。
茨城県大洗町の海岸から南西へ車で15分の位置に「日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター」がある。同センターは、ここでMOX燃料を使用した高速増殖炉「常陽」などの試験を通じて高速増殖炉(FBR)サイクルの実用化をめざしてきた。
一隅の4階建て作業ビルが、「日揮技術研究所」だ。脇に研究棟が南北に3つ並ぶ。フェンスには「周辺監視地域、みだりに立ち入ることを禁ず」のプレート。周囲に人家はなく、門前には畑があるのみ。南隣は、東芝と日立の共同出資する日本原燃の施設だ。これらの関連会社が日本の原子力研究を支えているのだ。
実は、東海村にある日本初の再処理工場は、「日揮」が建設した。「日揮」は、これまでウラン精錬、核燃料サイクル技術と放射性廃棄物の処理などを研究してきた。
東海村周辺には、三菱グループなど、核燃料関連会社が数多くある。前記「日揮技術研究所」もその一つだ。そのウランを日本はマリやニジェールから輸入している。また、「日揮」は、福島第一原発に事務所を構えていた。
アルジェリア人質事件で政府が「日揮」を特別扱いする理由はここにある。
【注1】
「【社会】世界水準の危機管理でも防げない武装勢力の襲撃」
【注2】
「書評:『戦場の掟』 ~ビッグ・ボーイ・ルール、民間軍事会社のイラク~」
【注3】
「【震災】原発>高レベル放射性廃液400立方メートル in 東海村」
「【震災】原発>廃炉を提案した東海村長 ~危なかった東海第二原発~」
□新藤健一(フォト・ジャーナリスト)「日本の原子力研究支える日揮」(「週刊金曜日」2013年2月1日号)
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