語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】は仮処分で1勝すれば止まる(2) ~福島原発告訴団~

2016年04月14日 | 震災・原発事故
 (6)福井地裁・高浜原発3、4号機運転差し止め仮処分決定(樋口英明・裁判長、2015年4月14日)や今回の大津地裁決定【注1】にしてもそうだが、原子力規制委員会の再稼働許可が下りていないと保全(保護して安全であるようにすること)の必要性がないと裁判所が判断するのは、「共通ルール」みたいになってきている。その証拠に、高浜原発3、4号機に原子力規制委員会の再稼働許可が下りる前の大津地裁決定(2014年11月27日)では、脱原発弁護団の仮処分申し立ては却下されている。
 だから、今後は原子力規制委員会の再稼働許可が下りた原発に対し、どんどん仮処分の申し立てをしていく。
 直近では、福島第一原発事故5周年の節目の日である3月11日に、すでに再稼働許可が下りている四国電力伊方原発3号機の運転差し止め仮処分を広島地裁に出した。この仮処分申請は、同原発1~3号機の運転差し止めを求める本訴と同時に行われた。

 (7)ここにきて、司法を舞台とした仮処分申請が非常に有力な手段であることがわかってきたわけだが、政治の舞台では、自治体の首長たちが原発の再稼働に反対し始めている。そうやって再稼働する原発を1基でも減らし、また、再稼働を先送りにさせている間に、自然エネルギーを増強していく、というのが河合弘之・弁護士の戦略だ。
 自然エネルギーは儲かる・・・・ということに気付けば、大企業も中小企業も、一斉になだれこんでくる。そんな自然エネルギーのブレイクスルーを河合弁護士ら市民の力で引き寄せなければならない。それができれば、ドイツみたいにかっこよく、凜として脱原発できる。
 ドイツが脱原発に踏み切れたのは、ドイツ国民とドイツ経済界が自然エネルギーを信用しているからだ。日本でもそこまで持っていければ、市民たちは勝てる。

 (8)原発を動かしながら、徐々にフェードアウトさせていくのではなく、原発はもう動かさない。事故を起こせば破局的損害を破局的損害を招く原発は、即、全部止める。
 自然エネルギーに移行していく過程のつなぎは、発電効力を高めたコンバインドサイクル発電や天然ガス(LNG)のコージェネレーションだ。石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を、改良された最新技術で使いながら、なるだけ早く自然エネルギーに移行していく。
 そのため「原動力」となる3作目の映画を、河合弁護士らは制作中だ。タイトルは「自然エネルギー 未来からの光と風(仮題)」だ。

 (9)放射能汚染を太平洋に垂れ流し続ける「公害犯罪処罰法違反」の疑いで書類送検された東電と新旧役員32人に対し、福島地検は3月29日、「立証が困難」として不起訴処分とした。
 東電は汚染水管理を怠り、汚染水タンクから高濃度の放射能汚染水を漏洩させる一方、地下水や海洋いんまで汚染を拡大させた。
 しかも抜本的な汚染水対策を講じると1,000億円の費用がかかり、東電が債務超過に陥って経営破綻するとして、意図的に汚染水対策が先送りにされたことを示す証拠まであった。
 海洋汚染はれっきとした事実だ。原因企業も特定できている。それなのに、誰も海洋汚染の責任を取らなくていいのか。
 今回の不起訴処分は、東電を助長させ、「何をやっても許される」という慢心を与えるだけだ。検察の責任は重大だ。

 (10)福島原発告訴団【注2】が、東電と役員らを同法違反の疑いで福島県警に刑事告発したのは2円前の2013年9月3日だった。
 申立人が、6,000人以上に達したこの告発は、正式受理されたものの、捜査は2年間にわたり、ダラダラと続けられた。そして、2015年10月、同県警はようやく書類送検した。
 今回、福島地検が公表した不起訴理由を見ると、福島沖の海水や海産物から検出される放射能は、2011年3月の大事故発生時に漏れ出した放射能なのか、それともその後の過失によって漏れ出した放射能なのか区別がつかないので、公衆の声明に危険を生じさせたかどうかを立証するのは「困難」だという。
 すべてがこの調子だ。はじめに「不起訴」の結論ありきで、屁理屈を並べたものでしかなかった。
 むろん、福島原発告訴団は、処分を不服として、福島検察審査会に対して、審査を申し立てる。

 【注1】
【原発】画期的な大津地裁の仮処分決定
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~

 【注2】
【原発】「5年目のフクシマを忘れないで」集会
【原発】福島原発告訴団の第2回総会/ふくしま集団疎開裁判の二審判決
【原発】福島原発告訴団、地検に東電本店の強制捜査を申し入れ
【原発】福島原発事故に係る集団訴訟の現在 ~2013年2月~
【原発】集団告訴団14,586人の「次の標的」 ~NHK、東大の学者~
【原発】集団告訴第二陣、ただ今7,600人 ~受付締切は10月末~
【原発】紫陽花革命が大手メディアを揺さぶる ~正しい報道ヘリの会~
【原発】「さようなら原発」17万人集会の記録
【原発】福島県民、東京電力を集団告訴 ~勝俣東電会長の逃げ切りを阻止~ 

□河合弘之/聞き手・まとめ:明石昇二郎「脱原発弁護団全国連絡会共同代表/河合弘之弁護士に聞く 仮処分で1勝すれば原発は止まる」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
脱原発弁護団全国連絡会
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 【参考】
【原発】は仮処分で1勝すれば止まる ~河合弘之弁護士に聞く~


【原発】は仮処分で1勝すれば止まる ~河合弘之弁護士に聞く~

2016年04月14日 | 震災・原発事故
 (1)2016年3月9日、大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め判決を下し、原発が再び稼働できなくなった。【注】
 動き始めたばかりの高浜原発3号機を止められたことには、非常に大きな意味がある。今後の戦略を考える上でも、非常に重要だ。
 動いていない原発を「動かすな」という裁判所命令と、動いている原発を「止めろ」という裁判所命令では、世論や電力会社に与える心理的影響もまったく違う。
 今まで「動かす前に止めよう」「再稼働させないことが勝負だ」と言ってきたが、今回の運転差し止め仮処分決定で、動いてからでも仮処分を勝ち取れることがわかった。スピードは大事だが、「再稼働されたら終わりだ」などと思わなくていい。諦めなくていいし、焦る必要もない。

 (2)電力会社としては「動かしてしまえばこちらのものだ」とばかりに、再稼働を既成事実化してしまおうと考えていたのだろうが、それが今回の仮処分で通用しなくなった。さらに、動かしたばかりの原発を止めるとなれば、手間や費用が余計にかかる。
 だから、電力会社は仮処分がかかっている限り、枕を高くして眠れない。
 今回の差し止め仮処分決定では、原発立地県外の裁判所で仮処分を申し立てるのが大変有効であることがわかった。
 その地域の社会や経済の真ん中にいる裁判官は、そうしたものからの影響と無縁ではいられない。そこに原発があれば、影響を受けてしまうし、遠慮も働く。
 でも、県外であれば、事故が起きれば被害だけ受ける「被害地元」なので、私の故郷をどうするつもりだという思いに、裁判官も共感できる。特に大津は、市民も裁判官も皆、美しい琵琶湖を見ながら暮らしているわけだ。要するに、「被害地元」にある裁判所での申し立てが大変重要であることがわかった。
 最初の裁判所で1敗しても、次の裁判所で1勝すれば、原発の運転は差し止められるのだということが、事実として広く世間に示されたことも大きい。1回目は負けても、別の裁判所で改めて勝負できる。
 一方、電力会社は全勝しなければならない。

 (3)もうひとつ、仮処分の申し立てのいいところは、短期にやることができることだ。そのため、裁判所が策動しにくい。最高裁が介入しづらい。
 今まで、何百人もの原告で本訴を行い、何年もかけ、いいところにまで訴訟を持って行っても、最後の段階になって「国や電力会社が負けそうだ」と最高裁が察知すると、裁判官を替えられ、負けたことがある。
 ところが、短期間で結論を出す仮処分では、裁判官を替えにくい。スピードの速い仮処分は、その動向も察知しにくい。
 ただ、今後は、関西電力が大津地裁に申し立てた仮処分決定への異議(異議審)と執行停止の審理で、最高裁が人事介入してくる可能性がある。
 大津地裁での異議審は、運転差し止め仮処分決定を出した山本善彦・裁判長が担当することが決まった。裁判官の少ない地方の裁判所では、同じ裁判官が異議審も担当することが多い。
 異議審では、山本裁判長と右陪席の裁判官が引き続き担当して、左陪席の裁判官だけ替わる。山本裁判長の任期はあと1年あるので、常識的に考えれば、山本裁判長たちがその任期中に異議審の決定を行う。人事異動のルールは、基本的に3年に1度とされているからだ。
 しかし、裁判長クラスとなると、「玉突き人事」という例外がある。誰かの昇格人事に合わせ、玉突き式に早めに異動するケースだ。最高裁がそれを装って、山本裁判長をはじめとした大津地裁の合議体を替えてくる恐れがある。
 そうされる前に、脱原発弁護団全国連絡会は今、最高裁に対して「そんな策動をするなよ」という声明を出し、牽制することを考えている。

 (4)八木誠・関西電力社長/電機事業連合会会長が、3月18日、「上級審で逆転勝訴した場合、(仮処分を申し立てた住民への)損害賠償請求は検討の対象になりうる」と、電事連の定例記者会見で語り、動揺を露わにした。脅しだ。角和夫・阪急電鉄会長/関西経済連合会副会長に至っては、「なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか」「こういうことができないよう、速やかな法改正を望む」と、さらに踏み込んだ発言をしている。
 角関経連副会長の発言は、本当に軽蔑すべき言いぐさだ。無知蒙昧のかぎりだ。司法と三権分立の原理をまったく心得ていない。行政が行き過ぎた時、誰が止めるのか。司法だ。
 八木関電社長の発言は、スラップ訴訟(恫喝訴訟)をやるぞ、どいう脅かしだ。社会的責任がある大企業の経営者として、あるまじき態度だ。
 福島第一原発が証明しているように、原発は本当に危険だ。きちんとした証拠に基づいて申し立て、それを裁判所が認めた結果、出た決定だ。

 (5)しかも、今回の決定文を見ると、
「主張及び疎明を尽くすべきである」
「根拠、資料に基づいて疎明されたとはいい難い」
「相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明をすべきところ--十分な資料はない」
「十分な主張及び疎明がされたということはできない」
「主張及び疎明は尽くされていない」
 と「疎明」という言葉が何度も登場してくる。
 「疎明」は裁判用語の一種で、裁判官が「そうだ」と確信するには至らないまでも、係争事実の存否について一応「確からしい」という推測を裁判官が得られる状態、あるいはそのために当事者(ここでは関電)が裁判所に証拠を提出する行為のことだ。
 決定文は、その「疎明」が足りないので、原発の運転を差し止める、と言っている。疎明が足りないのは誰のせいなのか。疎明を尽くさなかった関電自身のせいだ。文句があれば自分に言え、ということだ。
 八木発言については、住民側弁護団と脱原発弁護団全国連絡会の連名で、発言の撤回を求める抗議文を出した。仮処分を申し立てた住民にしてみれば、心穏やかでいられないからだ。
 ただし、今回のケースで裁判所が住民に対し、関電の損害を賠償するとう命じることなど、まずあり得ない。嘘だとわかっていながら仮処分を申請したり、偽造した証拠を出したり、偽の証言をして勝ったというような、裁判官を騙すという違法行為がないと、認められないだろう。
 しかも、本件では4回も審尋が行われ、その際の口頭弁論で激しいプレゼンテーションの応酬をやっているのだ。およそ1年をかけ、十分な審理を経た上で裁判官が出した結論が、今回の運転差し止め仮処分決定なのだ。

 【注】
【原発】画期的な大津地裁の仮処分決定
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~

□河合弘之/聞き手・まとめ:明石昇二郎「脱原発弁護団全国連絡会共同代表/河合弘之弁護士に聞く 仮処分で1勝すれば原発は止まる」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
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【経済】企業の賃上げに国家は関与するな ~「官製春闘」は尻しぼみに~

2016年04月14日 | 社会
 (1)3月16日は、春闘の集中回答日だった。賃上げ相場に大きな影響力を持つトヨタ自動車のベアは、労組要求額の半分の1,500円で昨年比2,500円となった。
 トヨタは、2016年3月期決算で過去最高を更新し、2兆8,000億円の営業利益を計上する見通しで、業績は堅調だ。しかし、豊田章男・社長は、労使交渉で、「経済の潮目が変わった」と訴えた。
 トヨタの2016年3月期第3・四半期決算(2015年4月~同12月)の連結販売台数は、前年同期比3.7%減の649万台。北米を除く全地域で軒並み販売が落ちている。特にこれまで成長市場と言われた東南アジアや南米などでは景気の悪化から販売が苦戦している。

 (2)自動車、電機、鉄鋼、重工といった主要企業の回答状況を見ても、ベア満額回答だったのは日産自動車だけだ。他社はトヨタと同様に、軒並み要求の半分以下だった。
 中国経済の減速、新興国の景気低迷など、世界経済には不透明感が漂っている。事業展開がグローバル化した中、日本の主要企業が下方硬直性の高いベアアップに慎重になるのは当然の流れだ。

 (3)特に世界経済の先行き不透明感を増長させているのが米国大統領選挙の行方だ。
 トヨタに限らず、自動車メーカーを中心とする日本の製造業は、北米市場で稼いでいる。2015年の米国の自動車市場は、リーマンショックから完全に回復し、過去最高を更新している。ドルに対する円安効果も大きい。
 しかし、
 「民主党のクリントン氏、共和党のトランプ氏のどちらが大統領に就いても自国の産業を守るために、米国は今までのような円安ドル高を容認しない」【トヨタ関係者】
との見方がある上に、米国で儲けている日本企業に対して何らかの圧力がかかってくるとも見られている。
 特にクリントン氏が強いと見られていたミシガン州において、予備選に予想外の敗北を喫したことで、一部の日本の自動車メーカーには警戒感が強まっている。デトロイトがある同州は、自動車産業の集積地だ。労働者からの支持を得られなかったクリントン氏が、保護主義に走る可能性が高まっているからだ。グローバル企業は、米国の政治情勢に敏感なのだ。

 (4)榊原定征・日本経団連会長は、2015年11月の官民対話で、前年超えの賃上げを早々と宣言。デフレ脱却のために企業に対して、法人税率引き下げと引き換えに賃上げ圧力をかけてくる安倍晋三・首相に媚びる姿勢を示した。
 そもそも民間企業の賃上げは、個別の業績や将来戦略に応じて決めるものだ。共産主義国でもないのに国家が関与すべきものではない。経営者であれば、そんなことは「常識」のはず。だのに政権に媚びる経団連も情けない。

 (5)鈴木修・スズキ会長は、「企業の体力を超えるこんな賃上げをしていては、いずれ自滅してしまう」と政府主導の春闘に異議を唱えていた。その鈴木会長も、「今年はやっと正常の春闘に戻った」と語ったそうだ。
 結局、多くの企業がベアを縮小したことで、「官製春闘」は尻すぼみに終わった。
 ただ、業績に応じて支給額を変動させやすいボーナスについては満額回答した企業が多い。企業は健全で合理的な判断をしたとも言える。 

□井上久男「「官製春闘」は尻しぼみに 企業の賃上げに国家は関与するなかれ ~経済私考~」(「週刊金曜日」2016年3月25日号)
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